放課後、昇降口の外は雨だった。
朝は晴れていたので、傘立てに残っている傘は少ない。春は自分の白い折り畳み傘を開き、隣にいた悠を見た。
「悠、傘は?」
「ない。朝、降るって言ってなかったから」
「天気予報は言ってたよ」
「見てない人には言ってないのと同じなんだよ」
春は納得したようにうなずいた。
「じゃあ、駅まで入る?」
「助かる」
二人は小さな傘の下に並んだ。校門まで来たところで、春が空を見上げる。
「ねぇ悠」
「なに」
「傘って、雨を一人分だけ止めるよね」
「今、二人入ってるけど」
「だから半分ずつ濡れてる」
見ると、春の右肩と悠の左肩が少し濡れていた。
「二人分には足りないだけだろ」
「違うよ。傘は一人分の雨を止めて、それを二人で分けてるの」
「雨に一人分ってあるのか」
「あるよ。人の真上に降る分」
春は傘を少し悠の方へ傾けた。今度は自分の肩に雨粒が当たる。
「ほら。悠の雨を止めたら、私の雨が入ってきた」
「傘を傾けたからな」
「つまり! 傘は雨を消してるんじゃなくて、担当する人を選んでる」
「急に職業意識が出たな」
通学路の角で、赤い傘を差した小学生とすれ違った。小さな傘の下には一人だけ。肩も鞄も濡れていない。
春はその後ろ姿を指した。
「一人なら完璧」
「サイズが合ってるから」
「傘は一対一が得意なんだよ。人間関係みたい」
「傘に関係を背負わせるな」
春は少し考えた。
「じゃあ、相合い傘ってすごいね」
「どこが」
「二人とも、自分の分を半分あきらめてる」

「きれいに言っても濡れてるだけだぞ」
信号で止まる。風が吹き、雨が斜めから入り込んだ。二人は同時に傘の中央へ寄った。
「今、傘の中が満員になった」
「定員一名だからな」
「でも、電車なら詰めればもっと乗れるよ」
「傘でそれをやると全員濡れる」
「大きい傘なら?」
「二人入れる」
「それは傘が二人分働いてるの?」
「面積が広いんだよ」
「じゃあ傘のお給料は面積で決まる?」
「誰が払うんだ」
「雨」
「止められてる側だぞ」
青信号になり、二人は横断歩道を渡った。歩く速さが少し違うだけで、傘の端から雨が入り込む。
春が急に立ち止まった。
「わかった。二人で入る時は、傘に合わせて歩けばいいんだ」
「今さら気づいたか」
「右、左、右、左って」
春が号令をかけながら歩き出す。最初の三歩はそろったが、四歩目で二人の靴がぶつかった。
「歩きにくい」
「傘が二人を一人にしようとしてる」
「無理がある」
駅前のコンビニに着く頃には、二人とも外側の肩だけ色が濃くなっていた。春は傘を閉じ、濡れた部分を見比べる。
「左右を合わせたら、一人分の濡れ方だね」
「本当に半分ずつだったな」
「傘はちゃんと一人分、仕事したんだよ」
「俺たちが分け方を間違えたんだろ」
春は傘を丁寧にたたんだ。
「帰りも入れてあげる」
「ありがとう」
「今度は前後で分けよう」
「もっと歩きにくい」
春は傘を横向きに持ってみた。
「じゃあ横に広げる?」
「それ、さっきまでと同じだよ」
自動ドアが開く。二人は店内へ入り、肩についた雨粒を払った。
春は最後に傘へ向かって、小さく言った。
「一人分、お疲れさま」
悠も濡れた肩を見てうなずく。
「次は二人分のを買おう」
「傘を?」
「天気予報を見る習慣を」



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