mochi-nori

食べ物の話

「コロッケはたぶん丸い気持ち」

「ねえ悠」 帰り道だった。「コロッケって、“許してくる感じ”あるよね」「何その圧のない宗教みたいな言い方」 商店街の夕方は、油の匂いがする。 肉屋の前を通るたびに、春は吸い寄せられるみたいに立ち止まる。今日もショーケースの前で、完全に猫だっ...
遊びと趣味

「いないいないの才能」

「ねえ悠。赤ちゃんって、なんで“いないいないばあ”で笑うんだろ」 帰り道だった。 夕焼けが住宅街をオレンジ色に染めていて、自転車を押す春の影が妙に長い。「知らないけど。急に育児の話?」「いや、さっき公園で見たの。お母さんが“いないいないばあ...
日常の不思議

「色鉛筆は、たぶん性格が出る」

「ねえ悠。白の色鉛筆って、なんのためにあるんだろうね」 放課後だった。 美術室の窓から、夕方の光が斜めに差している。 机の上には、使いかけの色鉛筆が散らばっていた。「紙が白なんだから、描いても見えないじゃん」 春は真剣な顔で白色鉛筆を掲げて...
学校の放課後

「カレンダーには敗北が書いてある」

「ねえ悠。カレンダーって、ちょっと失礼じゃない?」 放課後、春は教室の壁を見ながら言った。「急にどうした」「だって、“明日が来ますよ”って顔してる」「来るだろ」「でも、こっちはまだ今日をやってる途中なのに」 意味が分からない。 窓の外では運...
食べ物の話

「三時のおやつはだいたい世界を救う」

「悠。知ってる?」 放課後、春は購買のクリームパンを見つめながら言った。「人間の機嫌って、だいたい三時で決まるらしいよ」「初めて聞いたな、その学説」「だから三時のおやつって重要なんだよ。文明」「規模が急にでかい」 教室には夕方前の光が斜めに...
学校の放課後

「エアコンの気持ち」

「悠。エアコンって、たまに人生に疲れてるよね」 教室に入ってきた瞬間、春が真顔で言った。「急にどうした」「だって見て。今日のエアコン、“二十四度設定なのに全然やる気ない風”してる」「風に感情を見出すな」 六月の午後だった。 梅雨前の湿気が教...
日常の不思議

「歯磨きは、戦いだ」

「悠、知ってる?」 昼休み、春は突然真顔で言った。「歯磨きって、毎日やってるのに毎日負けるんだよ」「何に?」「食べカスに」「スケールが小さい戦争だな」 春はパンをもぐもぐしながら頷く。「しかも向こう、めちゃくちゃ隠れるの上手い」「まあ、奥歯...
学校の放課後

「中間テストは、ちょっと未来の自分に会いに行くイベントらしい」

「悠、知ってる?」 朝一番、教室に入ってきた春が言った。「中間テストって、“今の自分の弱点発表会”じゃなくて、“未来の自分へのファンレター”なんだって」「誰が言ってたんだ、その怖い言葉」「今、私」 窓際の席にカバンを投げた春は、なぜかすごく...
季節と天気

「ゴールデンウィークは、どこにも行かないのが一番遠い」

「悠、ゴールデンウィークってさ」 朝のホームルーム前、春は窓際で空を見ながら言った。「五回くらい“黄金”って言ってるのに、全然キラキラしてないよね」「名前の話?」「うん。もっと街とか金色にするべきだと思う」「景観条例で止められるだろ」 春は...
食べ物の話

「唐揚げ定食は、今日も世界を救えない」

「唐揚げ定食って、すごいよね」 昼休み。 購買へ向かう途中、春が急に立ち止まった。「また始まったな」「だって考えてみてよ。唐揚げって、“揚げられてる”のに人気者なんだよ?」「人気者の条件そこなの?」 春は本気の顔だった。 たぶん、本人の中で...