「悠」
「ん?」
「友達って、どこから友達なんだろうね」
放課後の教室だった。
春は椅子をぐらぐら揺らしながら、
窓の外を見ている。
「まずお前は椅子との友情を大事にしろ」
「これは信頼関係だから」
「その信頼、今にも壊れそうだけど」
ギシッ、と椅子が鳴る。
怖い。
「今日さ、一年生に“春先輩!”って話しかけられたんだよ」
「お前、後輩に人気あるよな」
「でも名前知らない」
「最低だな」
「でも向こう笑顔だった」
「罪悪感を持て」
春は笑いながら机に突っ伏した。
「だから今考えてる」
「何を」
「友達の定義」
「放課後にやる話じゃない」
「青春っぽいじゃん」
「お前は“青春”を便利な言葉だと思ってるだろ」
「便利だよ? だいたい許されるし」
「雑な使い方すんな」
春はくるっとこちらを向いた。
「悠って友達いる?」
「いるわ」
「え、いたんだ」
「毎回その確認するな」
「なんか一人で図書室に住んでそうだから」
「俺を都市伝説みたいに言うな」
「条件満たしたら会話イベント始まりそう」
「面倒なキャラ設定やめろ」
春は楽しそうに笑う。
窓から風が入って、
カーテンがふわっと揺れた。
「でもさ」
「ん?」
「毎日喋る人が友達ってわけでもなくない?」
「まあ、そうだな」
「クラス替えしたら急に話さなくなる人いるし」
「あるあるだな」
「逆に、久しぶりでも普通に話せる人もいる」
「……いるな」
「だから回数じゃないんだよ」
「なんか真面目に分析し始めたな」
春はうんうん頷く。
「私はね、“変なこと言っても平気な人”だと思う」
「変なこと?」
「例えば今、“廊下の観葉植物って夜ちょっと歩いてそう”って言ったとして」
「怖いわ」
「ほら、悠はちゃんと返してくれるじゃん」
「ツッコんでるだけだよ」
「でもたまに、“え……”って本気で引く人いるんだよ」
「それはお前が悪い」
「だから悠は優しい」
「基準低すぎるだろ」
春は満足そうに頷いた。
「あと、一緒にいて沈黙が平気な人」
「……あー」
「無理に喋らなくても、“まあいっか”ってなる人」
「それはちょっと分かる」
「コンビニでも別行動できるし」
「友情の例えが生活感ありすぎる」
「悠が飲み物コーナー行っても、“裏切られた!”ってならないもん」
「普通ならねえよ」
「でも“どこ行くの?”ってついてくる人いるじゃん」
「まあ、たまに」
「私はあれ、ちょっと修学旅行の班行動感ある」
「急に嫌な例えするな」
春はまた椅子を揺らした。
ギシギシ鳴っている。
そろそろ危ない。
「友達ってさ」
「うん」
「“ちゃんと仲良くしなきゃ”って思うと、ちょっと疲れるよね」
「……」
「でも、“なんかこの人といると楽だな”くらいの方が長く続く気がする」
悠は少しだけ黙った。
春は、
誰とでも話す。
でも無理してる感じがない。
たぶん、
“好かれよう”より、
“楽しもう”が先なんだ。
「……で、結局お前の中で友達って何なんだよ」
春は少し考えてから笑った。
「“また話したいな”って思う人かな」
「シンプルだな」
「シンプルな方が強いんだよ」
「なんだその名言っぽい雑さ」
その瞬間。
ギシッ、と椅子が大きく鳴った。
「あ」
ガタンッ!!
春が後ろにひっくり返る。
「うわっ、大丈夫か!?」
「いてて……」
「だから言っただろ!」
床に転がったまま、
春は笑った。
「でも今、“大丈夫か?”ってすぐ言ったから」
「ん?」
「悠は友達で確定だね」
「判定方法が軽すぎる」
「友情って案外そんなもんだよ」
「絶対違う」
春はケラケラ笑いながら起き上がる。
夕陽が、
教室を少し赤くしていた。
たぶん春は、
友達を作るのが上手いんじゃない。
“人と仲良くなる前に、まず楽しそうにする”のが上手いんだと思う。


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