【女勇者フェルミノ 第1話】勇者なのに、仲間を作らない理由

王宮で手帳を開き、一人旅の費用を王へ説明する黒髪のフェルミノ 女勇者フェルミノ

王国の謁見の間には、朝から張りつめた空気が漂っていた。

玉座の前に立つフェルミノへ、王が重々しく告げる。

「勇者フェルミノ。魔王を討ち、この国に平和を取り戻してほしい」

「はい。必ず」

フェルミノはまっすぐ王を見て、一礼した。

王国勇者選抜試験、首席。剣術だけでなく、判断力や危機対応も最高評価だった。20歳という若さを心配する声はあったが、その実力を疑う者はいない。

「初期装備と、支度金1,000ゴールドを用意した。旅に役立ててくれ」

「ありがとうございます。あの、1つ確認してもよろしいですか?」

「もちろんだ」

「装備が壊れた場合、修理費は支給されますか?」

「いや。支度金から出してもらう予定だが……」

「分かりました」

宿代と食費を手帳で計算する女勇者フェルミノ

フェルミノは小さな手帳を開き、さらさらと書き込んだ。

王はなぜか、自分が試験を受けているような気分になった。

「それから、旅人登録所へ寄るといい。戦士や魔法使い、僧侶を集めて、4人ほどで旅をするのだ」

「その件ですが、今回は1人で行こうと思っています」

「1人で?」

「はい」

「危険ではないか?」

王が身を乗り出すと、フェルミノは少し申し訳なさそうに手帳を見せた。

「標準的な宿は、1人1泊80ゴールドです。4人なら320ゴールド。食費を1人1日60ゴールドとすると、4人で240ゴールドになります」

「待て。もう計算したのか?」

「昨日、眠る前に少し」

少し、と言いながら、手帳には細かな数字がびっしり並んでいた。

「宿代と食費だけで、1日560ゴールドです。支度金が2日もちません」

「もっと安い宿もあるだろう」

「相部屋なら4人で160ゴールドです。でも、よく眠れずに戦闘で怪我をしたら、治療費の方が高くなります」

「そこまで考えるのか……」

王の隣にいた大臣が、感心したようにうなずいた。

「大臣、感心している場合ではないぞ」

「ですが陛下、予算を考える姿勢は立派かと」

「勇者に必要なのは、もう少し冒険心ではないのか?」

フェルミノは困ったように眉を下げた。

「冒険心で宿代は払えません」

大臣が小さく吹き出し、慌てて咳払いをした。

「仲間には、金では買えない力がある」

王の言葉に、フェルミノは素直にうなずいた。

旅立ちを前に費用を説明する女勇者フェルミノ

「私もそう思います。戦士がいれば守りが固くなりますし、魔法使いがいれば戦闘時間を短くできます。僧侶がいれば回復薬も節約できます」

「それなら――」

「ただ、装備の購入費を回収するまで、推定147日かかります」

王の手が止まった。

「魔王城までは?」

「120日を想定しています」

「旅の方が先に終わるな」

「はい。今の条件では赤字です」

大臣がまたうなずき、王に見られてそっと目をそらした。

「では、仲間が必要になったらどうする?」

「その時は、きちんと探します」

フェルミノは手帳を閉じ、少しだけ笑った。

「仲間がいらないと思っているわけではありません。今は、私1人で進めるところまで進みたいんです」

その声には、数字だけではない意志があった。

王はしばらく考え、やがて大きく息を吐いた。

「分かった。ただし、無理はするな」

「はい。命を危険にさらす節約はしません」

「それを聞いて安心した」

「では、最後にもう1つだけ」

「まだあるのか?」

フェルミノは遠慮がちに手を挙げた。

「魔王を討伐した場合、成功報酬はいくらでしょう?」

謁見の間が静まり返った。

王と大臣が顔を見合わせる。

「……平和と、国民すべての感謝では足りないだろうか」

「とても光栄です。でも、できれば金額も教えてください」

言い方は丁寧だったが、フェルミノは手帳を開いて待っていた。

「大臣」

「はい」

「予算書を持ってこい。今すぐだ」

こうして勇者フェルミノは、仲間ではなく、王国の正式な報酬契約書を手に旅立った。

契約書を鞄へしまう時、彼女はほっとしたように小さく笑った。

魔王討伐の旅は、まず金額の確定から始まった。


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