王都の武器屋で、店主は三本の剣を並べた。
「勇者様におすすめするなら、この聖銀の剣です。価格は1200ゴールド」
磨かれた刀身に青い光が走る。見るからに強そうだった。
フェルミノは値札を見て、次の剣へ視線を移した。
「こちらは?」
「鋼の剣。450ゴールドです」
「その隣は?」
「鉄の剣。180ゴールド。でも、勇者様が使う品ではありませんよ」
フェルミノは三本を同じ順番で持ち上げた。重さ、握り、刃の厚さを確かめる。
「聖銀の剣の攻撃力は?」
「鋼の剣より約3割上です。聖属性も付きます」
「耐久性は?」
「高いですが、専門の職人でなければ研げません」
「一回の整備費は?」
店主が少し声を小さくした。
「80ゴールドほど」
フェルミノは聖銀の剣を置いた。
「鋼の剣は?」
「うちなら15ゴールド。地方の鍛冶屋でも直せます」
「鉄の剣は?」
「自分で研ぐ人もいます」
「素晴らしい」
「そこを褒める勇者は初めてです」
店主は慌てて聖銀の剣を持ち上げた。
「しかし、強い剣なら戦闘が早く終わります。怪我も減る。回復薬代まで考えれば、高い剣の方がお得ですよ」
フェルミノはうなずいた。
「正しい意見です。試し斬りを」
店の裏庭に、訓練用の木人が三体用意された。
まず鉄の剣。フェルミノは一撃で木人の腕を落とした。
次に鋼の剣。胴体へ深く食い込む。

最後に聖銀の剣。青い光が走り、木人はきれいに二つへ割れた。
店主は胸を張った。
「この威力です!」
「木人に対しては過剰です」
「え?」
フェルミノは手帳を開く。
旅の途中で最も多く戦うのは低級モンスター。鉄の剣でも一撃。鋼の剣でも一撃。聖銀の剣でも一撃。
「必要な攻撃回数が同じなら、戦闘時間はほとんど変わりません」
「強敵には違います」
「強敵と戦う頻度は?」
「勇者なら多いでしょう」
「先月は2回です」
「意外と少ない」
「道中のスライムは43回でした」
フェルミノは計算する。
聖銀の剣1200ゴールド。専門整備80ゴールド。盗難対策の鞘と鍵、追加で40ゴールド。高価な装備を持っていると知られた場合の危険。
鋼の剣450ゴールド。整備15ゴールド。多くの町で修理可能。
鉄の剣180ゴールド。安いが、強敵相手では攻撃回数が増える。折れる可能性も高い。
「鋼の剣が最も安定しています」

店主は残念そうに聖銀の剣を戻した。
「最高の品を持つのも、勇者の務めだと思いますが」
「見栄の費用は王国へ請求できますか?」
「たぶん無理ですね」
「では不要です」
その時、店の奥から見習いが出てきた。
「店長、あの剣も見てもらったらどうです?」
持ってきたのは、柄に小さな傷がある鋼の剣だった。
「展示中に落としてしまいまして。性能に問題はありませんが、正規価格では売れない品です」
店主は渋い顔をする。
「それは350ゴールドだ」
フェルミノの目がわずかに動いた。
「試しても?」
傷のある剣は、先ほどの鋼の剣と同じ重さ、同じ切れ味だった。柄の傷は握れば見えない。
「これにします」
「勇者様、本当にそれで?」
「性能は同じ。100ゴールド安い」
「見た目が少し」
「敵は柄を見て笑いますか?」
「笑わないでしょうね」
「なら問題ありません」
フェルミノは代金を払い、古い剣を店主へ差し出した。
「下取りは?」
「刃こぼれがありますが、60ゴールドで」
「実質290ゴールド」
彼女は少し満足そうに新しい剣を腰へ差した。
店主が最後に尋ねる。
「もし魔王の城へ行く時は、聖銀の剣を買いますか?」
「必要なら買います」
「おお」
「ただし、城の直前で借りられないか先に調べます」
「武器をレンタルで済ませる勇者がいますかね」
「一度しか使わない高価な道具は、所有するより借りた方が得です」
「伝説の剣も?」
「返却期限によります」
店主は笑い、剣の手入れ用の布を一本おまけした。
フェルミノは値札を確認する。
「これは無料ですか?」
「無料です」
「では、この店を選んだ判断は正しかったです」
「剣じゃなくて布で評価が決まるんですか」
店を出たフェルミノは、新しい剣の柄の傷を指でなぞった。
完璧ではない。けれど、必要な時に必要なだけ働く。
道具としては、それで十分だった。

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