港町の武器屋で、店主が新商品を掲げた。
「投げても手元へ戻る、魔法のブーメラン! 三百ゴールド!」
フェルミノは黒い弧を描く武器を見た。
「必ず戻りますか?」
「もちろん。風の魔法が込めてある」
「敵に当たった場合も?」
店主の笑顔が少し止まった。
「……当たれば、その場に落ちることもある」
「一番必要な時に戻らないのですね」
「当たったなら成功だろう」
「成功するたび、回収へ行く必要があります」
隣で試し投げをしていた冒険者が笑った。
「外しても戻るんだから便利だよ」
フェルミノは店の裏にある射撃場を借りた。的まで二十メートル。冒険者がブーメランを投げると、的を外れ、美しい円を描いて手元へ戻った。
「ほらな」
二投目は的の端に当たり、地面へ落ちた。
冒険者は二十メートル歩いて拾い、また戻ってきた。
「命中一回につき、往復四十メートルです」
「戦いなら敵のところまで行くから同じだ」
「遠距離武器を選んだ理由が消えています」
店主は別の商品を出した。
「こちらは回収の魔法付き。五百五十ゴールドだ」
「追加で二百五十ゴールド」
「安全に戻ってくるぞ」
「敵に持ち去られた場合は?」
「所有者が呪文を唱えれば戻る」
「呪文の時間は?」
「十秒ほど」
「その十秒、武器はありません」
店主は咳払いした。
フェルミノは普通の投げナイフを手に取った。一枚十五ゴールド。腰の鞘には六枚収まる。
「九十ゴールドです」
「でも戻ってこないぞ」
「最初から戻らないと分かっていれば、回収を前提にしません」
冒険者は首をかしげた。

「戻る方が得じゃないのか?」
「戻る機能に二百十ゴールドを払い、命中するたび拾いに行くなら、便利さを買ったのか手間を買ったのか分かりません」
そのとき、港の倉庫から悲鳴が上がった。荷を荒らす大ネズミが三匹、木箱の間を走っている。
冒険者はブーメランを投げた。一匹に命中し、武器は箱の裏へ落ちた。
「効いた!」
残り二匹が冒険者へ向かう。
「ちょっと待て、今拾うから」
ネズミは待たなかった。
フェルミノは投げナイフを二枚抜き、続けて投げた。二匹の足元へ刺さり、進路を変えさせる。彼女は剣を抜き、短く踏み込んで追い払った。
戦いが終わると、冒険者は箱の裏からブーメランを見つけた。
「戻る武器なのに、俺が迎えに行った」
「命中した証拠です」
「慰めになってない」
フェルミノは投げナイフも拾った。刃こぼれはない。
店主が言う。
「結局、そっちも回収するんじゃないか」
「安全になった後なら拾います。戦闘中に戻ることを期待しません」
「違いはそこか?」
「機能ではなく、計画の違いです」
フェルミノは六枚の投げナイフを九十ゴールドで買った。
冒険者もブーメランを買った。ただし、背中へ予備の短剣を一本追加した。
「戻らなかった時用だ」
「良い判断です」
「でも名前は『戻る武器』なんだよな」
「名前は保証書ではありません」
店を出ると、海風が強く吹いた。冒険者は試しにブーメランを投げようとして、やめた。
「風が強い日は戻らないかもしれない」
「少しずつ理解していますね」
便利な道具とは、うまくいった時に派手なものではない。
うまくいかなかった時にも、次の手を残してくれるものだった。

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