冒険者ギルドの掲示板に、一枚だけ金色の依頼書が貼られていた。
「北の洞窟に住み着いた火トカゲの討伐。報酬800ゴールド」
受付係が目を輝かせる。
「今月で一番の高額依頼です。フェルミノさんなら半日ですよ」
フェルミノは依頼書を外さずに読んだ。
「依頼主は?」
「北鉱山の管理人です」
「支払日は?」
「討伐確認後です」
「確認する人は?」
「管理人本人ですね」
「前金は?」
「ありません」
受付係は不思議そうな顔をした。
「800ゴールドですよ?」
「受け取るまでは0ゴールドです」
フェルミノは必要経費を計算した。
洞窟までの馬車が往復40ゴールド。耐火薬が二本で90ゴールド。火傷用の薬が30ゴールド。剣の整備が15ゴールド。食料が8ゴールド。
合計183ゴールド。
「利益は617ゴールドです」
「十分高いじゃないですか」
「予定どおり支払われれば」
依頼書の端には小さく「被害状況により減額の場合あり」と書かれていた。
「減額の基準は?」
「依頼主の判断です」
「火トカゲが鉱山設備を壊した場合は?」
「報酬から修理費を引くことがあるそうです」
「討伐前に壊れていた設備との区別は?」
受付係は答えられなかった。
フェルミノは依頼書を掲示板へ戻す。
隣には、薬草園の柵を直す依頼があった。報酬240ゴールド。材料は依頼主支給。前金120ゴールド。作業後、ギルドが残額を支払う。
「こちらを受けます」
「勇者が柵の修理ですか?」
「剣より金槌が適切な仕事なら、金槌を使います」
そこへ若い冒険者が駆け込んできた。
「火トカゲの依頼、俺が受けます!」
彼は金色の紙を勢いよく剥がした。
「800ゴールドなら、新しい鎧が買える」
フェルミノは尋ねた。
「耐火薬は?」
「あとで買います」
「所持金は?」
「50ゴールド」
耐火薬一本にも足りない。だが若者は、討伐後に払う約束で道具屋から薬を借り、馬車代も借金した。
フェルミノは薬草園へ向かった。
柵は二か所壊れていた

園主が仕上がりを確認した。
「助かりました。残りはギルドから受け取ってください」
フェルミノの手元には、前金と残金で240ゴールド。持参した手袋が少し汚れただけだった。
夕方、ギルドへ戻ると、火トカゲを倒した若い冒険者も帰ってきた。鎧は焦げていたが、大きな怪我はない。
「やった! 800ゴールドだ」
受付係は書類を見て、困った顔をする。
「鉱山の管理人から連絡です。火トカゲが支柱を一本壊したので、修理費300ゴールドを差し引くそうです」
「俺が壊したんじゃない」
「討伐前の記録がないため、判断できないと」
支払われたのは500ゴールドだった。
そこから耐火薬90、馬車40、治療30、剣の修理15、食料8。さらに薬と馬車の後払い手数料が25。
残ったのは292ゴールド。
若者は焦げた鎧を見た。
「鎧の修理に200はかかる」
「最終利益は92ゴールドです」
フェルミノが計算すると、若者は椅子へ沈んだ。
「800ゴールドの仕事だったのに」
「表示された報酬と、残る利益は違います」
「そっちの柵はいくら残った?」
「240ゴールドです。材料費は依頼主持ちでした」
「地味なのに、俺より多い」
「地味さは経費になりません」
若者は金色の依頼書を裏返した。裏には細かな条件が続いている。
「次から全部読むよ」
「読むだけでは足りません。曖昧な条件は、受ける前に決めてください」
「勇者って、契約にも詳しくないと駄目なのか?」
「戦う前に報酬が消える原因を倒しておく方が効率的です」
翌日、ギルドの高額依頼には新しい欄が増えた。
前金、減額条件、確認方法、支払期限。
受付係がフェルミノへ笑いかける。
「これなら安心ですか?」
「以前よりは」
「800ゴールドなら、今度は受けます?」
フェルミノは条件を読み、首を横に振った。
「火トカゲはもう倒されています」
「あ」
高い報酬は、人を急がせる。
だからこそ、フェルミノは数字の大きさではなく、その数字が手元へ届く道筋を先に確かめた。

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