【女勇者フェルミノ 第18話】たいまつは、出口まで燃えてくれない

女勇者フェルミノ第18話の表紙。【女勇者フェルミノ 第18話】たいまつは、出口まで燃えてくれない 女勇者フェルミノ

鉱山跡の入口には、小さな道具屋があった。

店先には二種類のたいまつが並んでいる。

一本五ゴールドの短いものと、一本十二ゴールドの長いもの。

「安い方を二本ください」

フェルミノより先に並んでいた若い冒険者が、迷わず銅貨を置いた。

店主は短いたいまつを二本渡しながら言った。

「一本で四十分くらいだ。奥の採掘場まで往復するなら、長い方が安心だぞ」

「二本なら八十分です。長い方一本より二ゴールド安い」

冒険者は得意そうに笑った。

フェルミノは壁に貼られた坑道図を見る。入口から旧採掘場まで、迷わなくても片道三十分。途中には崩れた足場と、魔物が出る横穴がある。

「八十分には、帰り道も入っていますか」

「往復六十分だから、二十分余ります」

「火を移す時間と、戦う時間と、迷う時間は?」

「迷わなければ大丈夫です」

「迷う人は、迷う予定を立てません」

フェルミノは十二ゴールドの長いたいまつを一本買った。燃焼時間は二時間。金具の受け皿がついていて、燃えた樹脂が手に垂れにくい。

「勇者様なのに、高い方を買うんですね」

「暗闇で安い方を探し直す費用より安いです」

二人は同じ坑道へ入った。

壁は湿り、天井から落ちる水が足元の石を黒く光らせている。短いたいまつの炎は勢いよく燃え、冒険者は明るさを自慢した。

「ほら、安くても十分明るいです」

「最初は、ですね」

旧採掘場の手前で、岩陰からコウモリ型の魔物が飛び出した。

冒険者はたいまつを振り回して追い払おうとした。炎から赤い樹脂が飛び、彼は慌てて手を引く。

「熱っ!」

フェルミノはたいまつを壁の金具へ掛け、剣を抜いた。光を固定したまま、飛び込んできた魔物を一体ずつ斬り落とす。

戦いが終わるころ、短いたいまつは半分以下になっていた。

「思ったより燃えましたね」

「振れば酸素が増えます。明るくなる分、早く減ります」

「たいまつにも勢いの料金があるんですか」

「料金ではなく、残り時間です」

採掘場で目的の青い鉱石を見つけ、二人は引き返した。

冒険者は二本目のたいまつへ火を移そうとしたが、芯が湿っていた。火口へ近づけても、白い煙が出るだけで炎がつかない。

「店では乾いていたのに」

「坑道の中は湿っています」

一本目の炎が小さくなった。

暗がりで水の流れる音がする。帰り道は同じはずなのに、枝分かれが行きより多く見えた。

「勇者様。どちらでしたっけ」

「右です」

「すぐ答えられるんですね」

「入る時に、曲がり角の数を数えました」

フェルミノの長いたいまつは、まだ安定して燃えている。その火で冒険者の二本目をしばらく温めると、ようやく芯に炎がついた。

暗い坑道で消えかけたたいまつを持つ冒険者へ明かりを分ける女勇者フェルミノ

「助かりました。結局、二本で十ゴールドですけど」

「その二本目は、私の光がなければ使えませんでした」

「では、実質いくらでしょう」

「暗闇で計算を始めないでください」

入口へ戻った時、冒険者のたいまつは握りこぶしほどの長さしか残っていなかった。

フェルミノの方は、まだ半分以上ある。

「余りましたね。少しもったいなくないですか」

フェルミノは火を消し、残ったたいまつを布で包んだ。

「次に使えます」

「安い方も、一本余る予定だったんです」

「予定は燃料になりません」

冒険者は短くなった二本を見比べ、次の買い物では長い方の値札を確かめた。

たいまつは、目の前を明るくする道具だ。

けれど必要なのは、入口で一番明るい火ではない。

出口まで消えない見通しだった。

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