
街道の脇に、茶色い革袋が落ちていた。
フェルミノが足を止めるより先に、後ろを歩いていた若い冒険者が駆け寄った。
「戦利品だ!」
彼は革袋を持ち上げた。中で硬貨が鳴る。
フェルミノは周囲を見渡した。
魔物の姿はない。壊れた荷車も、争った跡もない。道の先には、町へ向かう馬車のわだちが続いている。
「何と戦ったのですか」
「え?」
「戦利品なのでしょう」
「いや、拾っただけだけど」
「では、落とし物です」
若い冒険者は袋を開き、銀貨を一枚だけのぞかせた。
「でも街道で見つけた物は、見つけた人の物じゃないのか?」
「宝箱なら、そういう場合もあります」
「袋も箱も、入れ物だろ」
「持ち主が運んでいる途中で落とした入れ物は、宝箱とは呼びません」
フェルミノは袋を受け取り、口を閉じた。
外側には、小さな粉ひき車の印が焼き付けられている。
「次の町の製粉所の印です」
「よく知ってるな」
「朝食用のパンが、あの製粉所の小麦でした」
「勇者って、そんなところまで覚えてるのか」
「代金を払った物は覚えています」
二人は街道を戻らず、そのまま次の町へ向かった。製粉所は町の門からほど近い場所にあった。
店先では、粉まみれの男が荷台の下をのぞき込んでいる。
フェルミノが革袋を見せると、男は勢いよく立ち上がった。
「それだ! 小麦の仕入れ代が入ってる!」

袋の中身を一緒に確かめる。銀貨と銅貨を合わせて、二百ゴールド。男が帳面に書いていた金額とも一致した。
「助かった。これがなかったら、明日の粉が買えないところだった」
男は袋から二十五ゴールドを取り出し、フェルミノへ差し出した。
「謝礼だ。受け取ってくれ」
フェルミノは金額を確かめてから受け取った。
若い冒険者が小声で尋ねる。
「返すのに、お金はもらっていいのか?」
「これは持ち主が決めた謝礼です」
「拾った時に一枚もらうのと、何が違うんだ?」
「誰が決めたかが違います」
男は大きくうなずいた。
「そうだ。勝手に一枚抜かれたら、二百ゴールドそろわない」
「じゃあ、最初に一枚取って、残りを届けたら謝礼は……」
「窃盗の確認から始まります」
若い冒険者は黙った。
製粉所を出ると、焼きたてのパンの匂いが通りまで流れてきた。
フェルミノは受け取った二十五ゴールドを財布へ入れる。
「落とし物を届けると、ちゃんと報酬になることもあるんだな」
「報酬がなくても届けます」
「でも今回は得しただろ?」
フェルミノは製粉所の看板と、通りの先の宿屋を見比べた。
「はい。町へ向かう予定は変わらず、追加の移動もありませんでした」
「そこを先に計算するのか」
「親切は無料でも、遠回りは無料ではありません」
若い冒険者はしばらく考え、それから街道の脇を見回した。
「もう一個、落ちてないかな」
「それは親切ではなく、収入源を探しています」
フェルミノは歩き出した。
彼は慌てて追いかけたが、今度は道に落ちた物より、前を歩く人の荷物をよく見るようになった。

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