港町へ向かう街道の入口に、二つの馬車乗り場が並んでいた。
左の看板には「定時便・35ゴールド・正午出発」。
右の看板には「乗合便・10ゴールド・6人集まり次第出発」。
若い旅人は迷わず右へ並んだ。
「同じ町まで行くのに、25ゴールドも安いですよ」
フェルミノは乗合便の受付に尋ねた。
「現在、何人ですか?」
「お二人を入れて3人です」
「あと3人が集まる平均時間は?」
「日によりますね。すぐの日もあります」
「最も遅かった日は?」
受付の男は少し考えた。
「夕方まで待ったことも」
フェルミノは定時便の切符を35ゴールドで買った。
「勇者様、お金がある人は違うなあ」
若い旅人が笑う。
「出発時刻を買いました」
正午、定時便は予定どおり動き出した。乗合便の前には、まだ3人しかいなかった。
若い旅人は木陰へ腰を下ろし、余裕のある顔で手を振った。
「25ゴールドあれば、港町で魚料理が食べられますよ」
「午後2時までに出発できれば、その計算で合っています」
「できますって。街道を使う人は多いですから」
フェルミノは乗合便の看板を見直した。そこには運賃と必要人数だけがあり、出発を保証する時刻はどこにも書かれていなかった。
街道は平坦で、港町までは4時間。途中の休憩所で馬を替えれば、門が閉まる前に着ける。
御者が言った。
「今日は夕方から雨らしいですよ。早い便でよかったですね」
一度目の休憩所では、馬の交換に10分だけ使った。御者は次の宿場へ伝令を出し、道のぬかるみを避ける経路も確認した。
「定時便は準備にもお金がかかるんです」と御者が言う。「客が少なくても馬を用意して、時刻になれば出しますから」
フェルミノはうなずいた。35ゴールドには、空席がある日の費用も含まれている。高いのではなく、約束を維持するための値段だった。
フェルミノは手帳を開いた。
港町の門は午後6時に閉まる。門の内側の宿は30ゴールド。門外の宿は、雨の日だけ50ゴールドになる。
定時便なら午後4時到着。宿を選ぶ時間が2時間ある。
乗合便が午後2時までに出れば、まだ間に合う。
ただし、出発がそれより遅れれば、安い切符の差額25ゴールドは宿代で消える。
午後4時、フェルミノは港町へ着いた。

宿を二軒見比べ、井戸と朝食が付く30ゴールドの方を選ぶ。荷物を置いた頃、窓に雨粒が当たり始めた。
翌朝、食堂にあの若い旅人が入ってきた。髪も外套も湿っている。
「乗合便は何時に出ましたか?」
「午後3時半です。最後の一人が来なくて」
「到着は?」
「午後7時半。門が閉まっていました」
彼は椅子へ座り、卓上に三枚の領収書を並べた。
馬車代10ゴールド。
待っている間に買った昼食8ゴールド。
門外の宿50ゴールド。
「合計68ゴールドです」
フェルミノは自分の手帳を見せた。
定時便35ゴールド。町の宿30ゴールド。合計65ゴールド。
「三ゴールド負けた……」
「さらに、港町で使える時間が半日減っています」
旅人は昼食の領収書を裏返した。
「待っている間、馬車が来たら困るから町にも戻れなかったんです」
「安い便を選んだあとで、行動の選択肢も減っています」
「そこまで数えます?」
「依頼の受付は午前中です」
若い旅人が顔を上げた。
二人が港町へ来た目的は、沖合の魔物を追い払う護衛依頼だった。募集人数は先着5人。受付は正午まで。
掲示板へ行くと、残り枠は一つだけだった。
「間に合った……」
旅人は胸をなで下ろした。
「もし満員なら、次の募集は3日後です」
「宿代がさらに90ゴールド」
「食費も必要です」
「もういいです。計算すると怖くなります」
受付を終えたあと、彼は帰りの馬車表を見た。
定時便35ゴールド。乗合便10ゴールド。
「帰りは定時便にします」
「理由は?」
「安い馬車が高いからです」
「少し違います」
フェルミノは乗合便の看板を指した。
「10ゴールドなのは、移動の値段です。いつ出発するか分からない時間は、値札に書かれていません」
「つまり、待ち時間も運賃?」
「予定を失う可能性まで含めれば」
若い旅人は定時便の切符を買った。
「35ゴールドで、何を買ったことになります?」
フェルミノは切符に印刷された出発時刻を見る。
「帰れる時刻です」
安い馬車は、確かに10ゴールドだった。
ただし、まだ出発していない。

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