【女勇者フェルミノ 第9話】全部拾うと、町まで帰れない

重い袋のそばで必要な素材だけを選ぶフェルミノ。全部拾うと、町まで帰れない 女勇者フェルミノ

岩場で倒したアイアンリザードは、全身が売り物だった。

硬い鱗は防具に、牙は刃物に、尻尾の骨は杖の芯に使える。

討伐を見届けた若い冒険者は、目を輝かせて大きな麻袋を広げた。

「勇者様、大当たりですよ。全部で500ゴールドにはなります」

フェルミノは剣の汚れを拭い、倒れた魔物を確かめた。

「売値は、町まで持ち帰れた場合の金額です」

「持ち帰りますよ。せっかく倒したんですから」

彼は鱗を次々と袋へ入れ始めた。

フェルミノも素材用の袋を出したが、拾ったのは大きな牙を2本と、胸元の薄い鱗を5枚だけだった。

「それだけですか?」

「はい」

「残りは?」

「置いていきます」

若い冒険者の手が止まった。

「400ゴールド分くらいありますよ」

フェルミノはステータス画面を開いた。

装備と荷物を合わせた現在の重量は22キロ。無理なく歩ける上限は30キロだった。

牙2本と薄い鱗5枚は合計3キロ。町での買い取り予想額は140ゴールド。

残りをすべて持つと、さらに27キロ増える。

「総重量が52キロになります」

「持てない重さじゃありません」

若い冒険者は袋を背負った。膝が沈み、立ち上がるまでに二度息をつく。

「ほら、持てます」

「町までは徒歩で2日です」

「ゆっくり行けば大丈夫です」

「その速さだと3日かかります。携帯食が1日分足りません」

「少しくらい我慢できます」

「空腹で能力が下がると、街道の魔物との戦闘時間が延びます」

フェルミノは手帳を開いた。

食料の追加が15ゴールド。1泊増えれば、野営用の薪と虫よけで10ゴールド。重量による靴底の修理が予想20ゴールド。

さらに、回避が遅れて回復薬を1本使えば50ゴールド。

「合計95ゴールドです」

「それでも400ゴールド分を運べます」

「すべて無傷で町へ着けば、です」

フェルミノは麻袋の底を指した。尖った鱗が布を押し、すでに糸が伸びている。

「袋が破れた場合は?」

「縫います」

「雨が降った場合は?」

「鱗だから平気です」

「尻尾の骨は水を吸うと買い取り価格が下がります」

「……屋根を作ります」

「その材料も持ちますか?」

若い冒険者は袋を下ろした。

拾った荷物の重さに悩む女勇者フェルミノ

フェルミノは素材を価値と重さで分けた。

牙は1キロあたり40ゴールド。胸元の薄い鱗は1キロあたり20ゴールド。背中の厚い鱗は丈夫だが、1キロあたり8ゴールド。尻尾の骨は長く、袋からはみ出すうえに1キロあたり5ゴールドだった。

「値段ではなく、1キロあたりの売値で選びます」

「でも、置いていくのはもったいないですよ」

「持ち帰るために時間と体力を使う物は、無料ではありません」

「倒したのに?」

「倒した費用と、運ぶ費用は別です」

若い冒険者は厚い鱗を1枚持ち上げ、牙と見比べた。

「大きい方が高そうに見えるのに」

「大きい方が、場所も取ります」

二人は牙と薄い鱗を優先し、残った袋の余裕に薬の材料になる爪を入れた。合計7キロ。予想売値は260ゴールドになった。

「さっきより240ゴールド減りました」

「重量は20キロ減りました」

「数字だけ見ると負けた気がします」

「町へ着けば260ゴールドの利益です。途中で動けなくなれば、500ゴールド分の荷物です」

若い冒険者は背負い直した袋の軽さに驚き、何度か肩を動かした。

帰路では、岩陰から小型の魔物が3匹現れた。

フェルミノは一歩で間合いへ入り、最初の1匹を斬る。若い冒険者もすぐ横へ動き、残りの攻撃を避けた。

戦闘は短く終わった。

「さっきの重さだったら、避けられなかったかもしれません」

「回復薬50ゴールドを使わずに済みました」

「やっぱり、そこなんですね」

町の買い取り所で、素材は予想より10ゴールド高い270ゴールドになった。

係員が帳簿を閉じる。

「アイアンリザードなら、背中の鱗も買い取れたのに。残してきたんですか?」

若い冒険者は一瞬だけ悔しそうな顔をした。

フェルミノは受け取った硬貨を袋へしまう。

「はい。おかげで予定どおり帰れました」

「もったいなくないですか?」

「いいえ」

フェルミノは手帳に、売却額と使わなかった回復薬を書き足した。

「持ち帰れない500ゴールドより、持ち帰った270ゴールドの方が高いです」

若い冒険者は空になった軽い袋を見た。

「次から、大きな袋を買った方がいいですかね」

「先に荷車の値段を調べましょう」

「結局、全部持って帰る気はあるんですね」

「採算が合えば、置いていく理由はありません」


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