岩場で倒したアイアンリザードは、全身が売り物だった。
硬い鱗は防具に、牙は刃物に、尻尾の骨は杖の芯に使える。
討伐を見届けた若い冒険者は、目を輝かせて大きな麻袋を広げた。
「勇者様、大当たりですよ。全部で500ゴールドにはなります」
フェルミノは剣の汚れを拭い、倒れた魔物を確かめた。
「売値は、町まで持ち帰れた場合の金額です」
「持ち帰りますよ。せっかく倒したんですから」
彼は鱗を次々と袋へ入れ始めた。
フェルミノも素材用の袋を出したが、拾ったのは大きな牙を2本と、胸元の薄い鱗を5枚だけだった。
「それだけですか?」
「はい」
「残りは?」
「置いていきます」
若い冒険者の手が止まった。
「400ゴールド分くらいありますよ」
フェルミノはステータス画面を開いた。
装備と荷物を合わせた現在の重量は22キロ。無理なく歩ける上限は30キロだった。
牙2本と薄い鱗5枚は合計3キロ。町での買い取り予想額は140ゴールド。
残りをすべて持つと、さらに27キロ増える。
「総重量が52キロになります」
「持てない重さじゃありません」
若い冒険者は袋を背負った。膝が沈み、立ち上がるまでに二度息をつく。
「ほら、持てます」
「町までは徒歩で2日です」
「ゆっくり行けば大丈夫です」
「その速さだと3日かかります。携帯食が1日分足りません」
「少しくらい我慢できます」
「空腹で能力が下がると、街道の魔物との戦闘時間が延びます」
フェルミノは手帳を開いた。
食料の追加が15ゴールド。1泊増えれば、野営用の薪と虫よけで10ゴールド。重量による靴底の修理が予想20ゴールド。
さらに、回避が遅れて回復薬を1本使えば50ゴールド。
「合計95ゴールドです」
「それでも400ゴールド分を運べます」
「すべて無傷で町へ着けば、です」
フェルミノは麻袋の底を指した。尖った鱗が布を押し、すでに糸が伸びている。
「袋が破れた場合は?」
「縫います」
「雨が降った場合は?」
「鱗だから平気です」
「尻尾の骨は水を吸うと買い取り価格が下がります」
「……屋根を作ります」
「その材料も持ちますか?」
若い冒険者は袋を下ろした。

フェルミノは素材を価値と重さで分けた。
牙は1キロあたり40ゴールド。胸元の薄い鱗は1キロあたり20ゴールド。背中の厚い鱗は丈夫だが、1キロあたり8ゴールド。尻尾の骨は長く、袋からはみ出すうえに1キロあたり5ゴールドだった。
「値段ではなく、1キロあたりの売値で選びます」
「でも、置いていくのはもったいないですよ」
「持ち帰るために時間と体力を使う物は、無料ではありません」
「倒したのに?」
「倒した費用と、運ぶ費用は別です」
若い冒険者は厚い鱗を1枚持ち上げ、牙と見比べた。
「大きい方が高そうに見えるのに」
「大きい方が、場所も取ります」
二人は牙と薄い鱗を優先し、残った袋の余裕に薬の材料になる爪を入れた。合計7キロ。予想売値は260ゴールドになった。
「さっきより240ゴールド減りました」
「重量は20キロ減りました」
「数字だけ見ると負けた気がします」
「町へ着けば260ゴールドの利益です。途中で動けなくなれば、500ゴールド分の荷物です」
若い冒険者は背負い直した袋の軽さに驚き、何度か肩を動かした。
帰路では、岩陰から小型の魔物が3匹現れた。
フェルミノは一歩で間合いへ入り、最初の1匹を斬る。若い冒険者もすぐ横へ動き、残りの攻撃を避けた。
戦闘は短く終わった。
「さっきの重さだったら、避けられなかったかもしれません」
「回復薬50ゴールドを使わずに済みました」
「やっぱり、そこなんですね」
町の買い取り所で、素材は予想より10ゴールド高い270ゴールドになった。
係員が帳簿を閉じる。
「アイアンリザードなら、背中の鱗も買い取れたのに。残してきたんですか?」
若い冒険者は一瞬だけ悔しそうな顔をした。
フェルミノは受け取った硬貨を袋へしまう。
「はい。おかげで予定どおり帰れました」
「もったいなくないですか?」
「いいえ」
フェルミノは手帳に、売却額と使わなかった回復薬を書き足した。
「持ち帰れない500ゴールドより、持ち帰った270ゴールドの方が高いです」
若い冒険者は空になった軽い袋を見た。
「次から、大きな袋を買った方がいいですかね」
「先に荷車の値段を調べましょう」
「結局、全部持って帰る気はあるんですね」
「採算が合えば、置いていく理由はありません」

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