
山道の分かれ目で、若い冒険者が地図と看板を交互に見ていた。
左の看板には、「街道の治療院まで二十分」。
右の看板には、「回復の泉まで一時間半。使用料無料」。
若い冒険者は、足首に巻いた布を押さえながら右を指した。
「無料なら、泉に行くしかないな」
フェルミノは、彼の足元を見た。
布には、新しい血がにじんでいる。
「泉まで、その足で一時間半ですか」
「健康なときは、それくらいだった」
「帰りも同じ道です」
「治れば、帰りは速い」
「治るまでの行きが、いちばん遅いです」
若い冒険者は、もう一度「無料」の文字を見た。
「でも治療院は、初診料が十ゴールド。治療が二十ゴールドだぞ」
「三十ゴールドで、二時間以上と、傷を悪化させる危険を買わずに済みます」
「時間は売ってないだろ」
「では、無料で失っても戻ってきません」
フェルミノは膝をつき、布の上から傷の状態を確かめた。
骨に異常はなさそうだが、無理に歩けば傷口が開く。
フェルミノは初級回復魔法で出血を止めた。それでも、長時間歩かせるべきではない。
「街道まで肩を貸します。治療院へ行ってください」
「助かるけど、三十ゴールドか……」
「泉へ行くと、三時間と三十ゴールドの両方を失う可能性があります」
「なんで三十ゴールドも?」
「結局、悪化して治療院へ行くからです」
若い冒険者は反論しかけたが、立ち上がった途端に顔をしかめた。

「……治療院にする」
二人は、ゆっくり街道へ向かった。
途中、背後から水の音が聞こえた。山の奥から流れてくる、普通の小川だった。
若い冒険者が振り返る。
「もしかして、あれが回復の泉につながってるんじゃ……」
「飲まないでください」
「まだ何もしてない」
「無料と聞いたときの顔をしていました」
若い冒険者は小川から目をそらした。
街道へ出ると、治療院の白い旗が見えた。
「近いな」
「有料の回復は、回復する前から近いんです」
「無料の方は?」
フェルミノは、遠くなった山道の看板を見た。
「治るころには、今日が三時間減っています」
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