【女勇者フェルミノ 第21話】無料の回復は、三時間先にある

山道の分かれ目で回復の泉と治療院の看板を比べる黒髪の女勇者フェルミノ 女勇者フェルミノ
山道の分かれ目で回復の泉と治療院の看板を比べる黒髪の女勇者フェルミノ

山道の分かれ目で、若い冒険者が地図と看板を交互に見ていた。

左の看板には、「街道の治療院まで二十分」。

右の看板には、「回復の泉まで一時間半。使用料無料」。

若い冒険者は、足首に巻いた布を押さえながら右を指した。

「無料なら、泉に行くしかないな」

フェルミノは、彼の足元を見た。

布には、新しい血がにじんでいる。

「泉まで、その足で一時間半ですか」

「健康なときは、それくらいだった」

「帰りも同じ道です」

「治れば、帰りは速い」

「治るまでの行きが、いちばん遅いです」

若い冒険者は、もう一度「無料」の文字を見た。

「でも治療院は、初診料が十ゴールド。治療が二十ゴールドだぞ」

「三十ゴールドで、二時間以上と、傷を悪化させる危険を買わずに済みます」

「時間は売ってないだろ」

「では、無料で失っても戻ってきません」

フェルミノは膝をつき、布の上から傷の状態を確かめた。

骨に異常はなさそうだが、無理に歩けば傷口が開く。

フェルミノは初級回復魔法で出血を止めた。それでも、長時間歩かせるべきではない。

「街道まで肩を貸します。治療院へ行ってください」

「助かるけど、三十ゴールドか……」

「泉へ行くと、三時間と三十ゴールドの両方を失う可能性があります」

「なんで三十ゴールドも?」

「結局、悪化して治療院へ行くからです」

若い冒険者は反論しかけたが、立ち上がった途端に顔をしかめた。

足をけがした若い冒険者に肩を貸し街道の治療院へ向かうフェルミノ

「……治療院にする」

二人は、ゆっくり街道へ向かった。

途中、背後から水の音が聞こえた。山の奥から流れてくる、普通の小川だった。

若い冒険者が振り返る。

「もしかして、あれが回復の泉につながってるんじゃ……」

「飲まないでください」

「まだ何もしてない」

「無料と聞いたときの顔をしていました」

若い冒険者は小川から目をそらした。

街道へ出ると、治療院の白い旗が見えた。

「近いな」

「有料の回復は、回復する前から近いんです」

「無料の方は?」

フェルミノは、遠くなった山道の看板を見た。

「治るころには、今日が三時間減っています」

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