【女勇者フェルミノ 第12話】鎧は、宿代に含まれない

女勇者フェルミノ第12話の表紙。【女勇者フェルミノ 第12話】鎧は、宿代に含まれない 女勇者フェルミノ

街道沿いの宿へ着いた時、雨は本降りになっていた。

「一泊、夕食付きで百ゴールドです」

宿の主人が鍵を差し出す。フェルミノは濡れた鎧を見下ろした。

「鎧を乾かす場所はありますか?」

「暖炉の前なら。ただし、泥を落としてからお願いします」

隣にいた若い騎士が笑った。

「勇者様も鎧を脱ぐんですね」

「着たまま眠るつもりでしたか?」

「野営では、そのまま寝ることもあります」

騎士の鎧から、雨水が床へ落ちた。

「翌朝、肩が動きますか?」

「少し重いです」

「眠れていますか?」

「寝返りのたびに起きます」

フェルミノは手帳を開いた。鎧を外すのに五分。泥を拭き、革紐を点検し、乾かす場所へ運ぶのに十五分。翌朝に着直すのに十分。

「合計三十分ですね」

「面倒でしょう?」

「着たまま眠って三時間浅くなるより安いです」

騎士は首をかしげた。

「時間をゴールドで数えるんですか?」

「疲れたまま戦えば、回復薬を使います」

回復薬は一本五十ゴールド。壊れた革紐の交換は十ゴールド。寝不足で道を間違えれば、宿代より高くつく。

主人が布と油を持ってきた。

「手入れ道具は一式十五ゴールドです」

「宿泊客も?」

「布は返却、油は使った分だけ。乾燥棚も使えます」

フェルミノは十五ゴールドを払った。

騎士は驚いた。

「節約する人が追加料金を払うんですね」

「明日も使う装備です。今夜の手間を買うのではなく、明日の故障を減らします」

宿屋で鎧の扱いを確認する女勇者フェルミノ

二人は食堂の隅で鎧を外した。兜、肩当て、胸当て、籠手、すね当て。床へ並べると、騎士の装備は小さな店一軒ほどの場所を取った。

「人間一人分の宿代で、鉄の人間も一人泊まっています」

「鎧の部屋代も請求されたら困ります」

主人が笑う。

「乾燥棚を占領するなら、少し考えますね」

騎士は慌てて装備を詰めた。だが、濡れた革紐を重ねてしまう。

「そこは離してください」とフェルミノが言う。

「細かいですね」

「乾かない場所から先に傷みます」

夕食後、騎士は軽い服で椅子へ沈んだ。

「体がこんなに軽かったのか」

「鎧を脱いだだけです」

「いつも着ていると、重さを忘れるんです」

「忘れても、肩は覚えています」

翌朝、騎士は一度も起きずに眠れたと言った。鎧の革紐も乾き、油を差した留め具は滑らかに動いた。

「三十分と十五ゴールドで、ずいぶん違うな」

「休む準備も旅の仕事です」

主人が会計を渡す。一泊百ゴールド、手入れ道具十五ゴールド。合計百十五ゴールド。

騎士は数字を見て言った。

「鎧を脱ぐのは無料なのに、どうして今までしなかったんだろう」

フェルミノは兜をかぶり、顎紐を締めた。

「無料の作業ほど、後回しにされやすいからです」

宿を出ると、雨は上がっていた。騎士の歩幅は昨日より広い。

装備を休ませる時間は、冒険を止める時間ではない。

次の日も歩き続けるために、旅へ戻しておく時間だった。


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