森を抜ける途中、フェルミノは右手の甲を枝で浅く切った。
血はにじんだが、初級回復魔法を使うほどではない。彼女は道具袋から、乾燥させた薬草の束を取り出した。
包み紙には、こう書かれていた。
『旅人の傷に。よく効く薬草』
それだけだった。
フェルミノは薬草を見つめた。
「食べるのでしょうか」
隣を歩いていた薬売りの見習いが振り返る。
「え?」
「塗るのでしょうか。煎じるのでしょうか」
「薬草なんだから、傷に使えばいいんですよ」
「使い方を聞いています」
見習いは薬草を一枚つまんだ。
「村では、揉んで貼ります」
「あなたの店では?」
「煎じて飲みます」
「同じ薬草を?」
「たぶん」
フェルミノは、薬草を包みへ戻した。
「たぶんで体内に入れる物ではありません」
二人は街道脇の休憩所へ入り、店番の老婆に尋ねた。
老婆は薬草を見るなり言った。
「それなら、噛んで傷へ塗るんだよ」
見習いがうなずく。
「ほら、塗る方でした」
「先に噛んでいます」
「食べてはいません」
「口には入れています」
老婆は別の棚から、同じ葉に見える薬草を出した。
「こっちは煮て飲む。熱がある時に効く」
「見分け方は?」
「葉の裏の筋が一本多い」
フェルミノと見習いは、二つの葉を並べた。
「同じに見えます」
「慣れれば分かるよ」
「慣れるまでに、何回間違えますか」
老婆は黙って眼鏡をかけた。
よく見ると、フェルミノの薬草は傷へ貼る種類だった。ただし、揉んで汁を出し、清潔な布の上から当てる。直接貼ると細かな毛が皮膚を刺激するという。
「効果が出るまでの時間は?」
「半日くらいだね」
「では、すぐに戦闘がある時には向きません」
「急ぐなら回復薬だよ。一本五十ゴールド」
薬草は一回分三ゴールド。安いが、効き目は遅い。傷を洗う水と清潔な布も必要だった。

フェルミノは手帳へ書く。
『浅い傷、戦闘予定なし――薬草』
『深い傷、戦闘予定あり――回復薬または治療院』
見習いが覗き込んだ。
「安い方を使うんじゃないんですね」
「安くても、必要な時までに効かなければ治療費ではなく飾りです」
フェルミノは傷を水で洗い、自分の布を細く切った。揉んだ薬草を布で包み、右手の甲へ巻く。
「それで、治ったと分かるのはいつです?」
「痛みが引き、赤みが広がらなければ半日後です」
「広がったら?」
「使用を中止して治療院へ行きます」
「薬草にも撤退条件があるんですか」
「効いていると信じて重症になる方が高くつきます」
老婆は感心したように、薬草の包み紙を裏返した。
「そこまで書く場所はないねえ」
フェルミノは紙の余白を指した。
「『食べない』『直接貼らない』『半日』の三つなら入ります」
見習いが炭筆で書き込んだ。
食べない。
直接貼らない。
半日待つ。
翌朝、見習いは店で売る薬草の包みすべてに、小さな説明札を付け始めた。
「手間が増えました」
「問い合わせは減ります」
「間違えて使った客の返品も?」
「治療費の相談も減ります」
見習いの手が急に速くなった。
フェルミノは包帯を外した。傷は閉じ、赤みもない。
「効きましたね」
「はい。三ゴールドで済みました」
「薬草は安い」
フェルミノは、新しく説明札の付いた包みを一つ買った。
「説明がある薬草は、です」
包みの裏には、さらに小さな文字が増えていた。
『分からない時は、食べる前に聞いてください』
フェルミノはそれを読み、静かにうなずいた。
「順番が正しくなりました」

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