【女勇者フェルミノ 第22話】ついでは、依頼書に書いていない

見張り塔の中庭で追加依頼が書き足された依頼書を確認する女勇者フェルミノ 女勇者フェルミノ
見張り塔の中庭で追加依頼が書き足された依頼書を確認する女勇者フェルミノ

フェルミノは、山道の見張り塔へ薬箱を届けた。

冒険者ギルドの依頼書には、こう書かれている。

『治療薬一箱を見張り塔へ運搬。報酬百八十ゴールド』

薬箱の封は切れていない。瓶の破損もない。時間も指定どおりだった。

見張り塔の管理人は受取書に署名すると、中庭の奥を指した。

「助かったよ、勇者様。じゃあついでに、あの柵も直してくれ」

木の柵が一枚、風で倒れていた。

フェルミノは依頼書を見た。

「柵の修理は、書かれていません」

「ハンマーで釘を打つだけだ。ついでだよ」

「ついでは、依頼の種類ですか」

管理人は目をしばたたかせた。

「いや、そういう言葉だ」

「では、報酬の種類でもありませんね」

フェルミノは倒れた柵を確かめた。

板は無事だが、古い釘が曲がっている。打ち直すより、新しい釘へ交換した方が安全だ。

「材料がそちらの支給なら、修理は四十ゴールドでお受けします」

「四十? たった一枚だぞ」

「たった一枚でも、倒れたままでは困るのですよね」

「それはそうだが……」

管理人は腕を組み、今度は軒下に積まれた空箱を指した。

「じゃあ、帰りにこの箱をギルドへ返してくれ。どうせ同じ道を戻るんだろう?」

空箱は三つあった。重くはないが、両手が塞がる。

「返送は二十ゴールドです」

「空だぞ」

「中身が空でも、私の手は空きません」

山道で魔物が出れば、箱を地面へ置く必要がある。雨が降れば、濡らさないよう覆いもかける。

空箱の価値と、運ぶ手間は別だった。

管理人は依頼書と、柵と、空箱を順番に見た。

「勇者なら、これくらいやってくれると思ったんだが」

「必要な仕事なら、お受けします」

フェルミノは静かに答えた。

「でも、必要な仕事ほど、最初から依頼書へ書くべきです」

「たかが六十ゴールドの違いだろう」

「はい。ですから、書いても報酬はほとんど変わりません」

管理人は言葉に詰まった。

少し考えた後、受取書の空いている部分に書き足す。

『追加依頼。柵の修理四十ゴールド。空箱の返送二十ゴールド』

「これでいいか」

フェルミノは文面を読み、うなずいた。

「引き受けます」

倉庫から新しい釘とハンマーを借り、フェルミノは柵を立て直した。

曲がった釘を抜き、新しい釘を打つ。板がぐらつかないことを確かめる。

修理した柵のそばで空箱を紐でまとめるフェルミノ

それから空箱をひもでまとめ、背負えるよう固定した。剣を抜く手も塞がない。

見張り塔の管理人から、当初の百八十ゴールドと追加の六十ゴールドを受け取った。

合計二百四十ゴールド。

「次からは、柵と箱も最初から書いておくよ」

「その方が、引き受ける側も準備できます」

「依頼料が高く見えないか?」

「後から仕事が増えるより、最初から高い方が安いです」

管理人は、新しい受取書をまじまじと見た。

フェルミノは三つの空箱を背負い、見張り塔を出た。

「ついでって、便利な言葉だな」

背後から管理人の声がした。

フェルミノは振り返らずに答えた。

「はい。頼む側にとっては」

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