【女勇者フェルミノ 第25話】戦わなかった護衛にも、報酬は出る

町門の前で荷馬車の車輪を確かめる黒髪の女勇者フェルミノ。戦わずに荷物を守る護衛の物語の表紙 女勇者フェルミノ
町門の前で荷馬車の車輪を確かめる黒髪の女勇者フェルミノ。戦わずに荷物を守る護衛の物語の表紙

「無事だったんだから、護衛料は少し安くならないか」

夕暮れの町門で、行商人がフェルミノにそう言った。

荷馬車には、ガラスの小瓶が十二箱。一本でも割れれば、町の薬屋への納品数が足りなくなる。

朝、行商人が冒険者ギルドに出した依頼は、隣町までの護衛。報酬は九十ゴールドだった。

「魔物が出たら、剣で追い払ってくれ」

「はい。でも、魔物に会わずに着く方法も考えます」

行商人は笑った。

「それができるなら、護衛なんていらないだろう」

出発前、フェルミノは車輪の留め具と荷台の縄を確かめた。右の縄が一本、雨で緩んでいる。

「締め直してもいいですか」

「魔物は縄をほどかないぞ」

「道は、ほどきます」

行商人が縄を締める間、彼女は二つの街道を見比べた。

森を抜ける近道は、昼でも薄暗い。舗装された遠回りは人通りがあり、途中に見張り所もある。

「今日は遠回りで行きます」

「二十分も長いぞ」

「小瓶を十二箱、暗い森で守るより短いです」

舗装路に入ると、前を走る馬車が泥のくぼみを大きく揺らして通った。

フェルミノは荷馬車を止め、行商人に少し右へ寄るよう伝えた。車輪はくぼみを避け、荷台の小瓶は小さく鳴っただけで済んだ。

「あの程度、割れやしないさ」

「割れるか試すと、結果が出てしまいます」

見張り所では、森側で角猪が目撃されたと聞いた。

行商人は遠くの木立を見た。

「本当にいたのか」

「いたそうです。こちらには来ていません」

「護衛がいると、角猪は逃げるんだな」

「私の顔を知っている角猪なら、そうかもしれません」

「知らないのか」

「紹介したことはありません」

日が傾くころ、荷馬車は町門をくぐった。薬屋の店主が箱を数える。十二箱。割れた瓶は一本もない。

そこで、行商人が護衛料の値引きを持ちかけたのだった。

「剣を抜いていないだろう」

「はい。抜かずに済む道を選びました」

「魔物も追い払っていない」

「追い払う必要がない場所を通りました」

「護衛って、戦う仕事じゃないのか」

フェルミノは、納品を終えた空の荷馬車を指した。

「依頼書には『荷馬車を隣町へ無事に届ける』とあります。戦闘回数は書かれていません」

行商人は依頼書を読み直した。たしかに、その通りだった。

「つまり、何も起きなかったから、九十ゴールドか」

「何も起きないようにしたので、九十ゴールドです」

薬屋の店主が、割れずに届いた小瓶を棚に並べながらうなずいた。

町の薬屋で行商人から護衛料を受け取る黒髪の女勇者フェルミノ。背景では薬屋が小瓶の箱を確かめている

行商人は九十ゴールドを数え、フェルミノに渡した。

「次も、魔物に会わない道を頼めるか」

「保証はできません。でも、先に調べます」

「それなら安心だ」

フェルミノは硬貨を財布にしまった。

「私もです。剣を抜くと、手入れが増えますから」

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