「日光浴ってさ」
春がベンチに寝転がったまま言った。
「人間が“今日は光を浴びようかな〜”ってしてるの、ちょっと植物寄りだよね」
「最初の一言から分類学がおかしい」
放課後の公園だった。
ブランコは風だけで揺れていて、遠くで小学生がドッジボールをしている。
春はベンチに横になって、完全に“干されている布団”みたいな顔をしていた。
悠はその隣でスポーツドリンクを飲んでいる。
「でもさ、考えてみてよ」
春は片手を空に向けた。
「太陽って、地球規模の“おはよう”じゃん」
「スケールがでかすぎて逆に何も入ってこない」
「だから日光浴って、“あ、おはようございます〜”って返事してる行為なのかも」
「近所付き合いみたいに言うな。太陽との距離感どうなってるんだ」
春は目を細めた。
「今日は機嫌よさそうだねぇ、太陽」
「天気予報の解像度が急に雑」
「昨日ちょっと曇ってたから、“あ、今日あんま喋りたくない日なんだ”って思ってた」
「太陽に繊細な感情を見出すな」
悠が呆れながら言うと、春はふっと起き上がった。
「でも悠、日光浴っていいよ?」
「まあ、健康にはいいらしいな」
「うん。無料なのがすごい」
「そこ?」
「普通、“全身をほんのり温めて、気持ちをちょっと前向きにしてくれるサービス”って月額取られるじゃん」
「サブスクみたいに言うな」
「太陽プレミアム会員」
「絶対まぶしい広告出てくるだろ」
春は笑った。
「でも、なんか不思議なんだよね」
「何が」
「人って、悩んでる時でも天気いいとちょっと外出るじゃん」
「まあ……家にこもるよりはって感じでな」
「たぶん、“考える”って室内向きなんだよ」
悠は少しだけ眉を上げた。
春は続ける。
「外って、“考える”より“感じる”が強いから」
「……急にそれっぽいこと言うな」
「だって太陽の下だと、“人生とは……”ってしてても途中で“あっ、鳥いる”ってなるし」
「人類の思考、だいぶ鳥に負けるな」
「でも、そのくらいがちょうどいいんじゃない?」
春は空を見上げた。
雲がゆっくり流れている。
「ずっと真面目に考えてると、人間って煮詰まるし」
「お前はもう少し考えろ」
「考えてるよ?」
「どこが」
「“アイス溶ける前に食べるには、どの角度が最適か”とか」
「その知能の使い道、夏限定なんだよな」
春は急に立ち上がった。
「よし、もっと日光浴しよう」
「十分してるだろ」
「まだ太陽と打ち解け切れてない」
「お前、交友関係広げる感覚で恒星に近づくな」
春は公園の真ん中で両手を広げた。
「太陽〜! いつもありがとう〜!」
「やめろ恥ずかしい!」
すると近くの小学生が一人、つられて空に向かって叫んだ。
「ありがとー!」
さらに別の子も叫ぶ。
「ありがとー!!」
悠は頭を抱えた。
「最悪だ……伝染した……」
春は満足そうに頷いた。
「ほら。太陽って、“なんかお礼言いたくなる感じ”あるんだよ」
「宗教の始まりみたいな空気出すな」
「でもさ」
春は笑う。
「“今日は天気いいな”って思える日って、ちょっと得した気分にならない?」
悠は少しだけ空を見た。
眩しくて、目を細める。
風が吹いて、ブランコがまた揺れた。
「……まあ、それはちょっと分かる」
春は嬉しそうに笑った。
「でしょ? 太陽、わりと頑張ってる」
「地球規模で上から目線だなお前」



コメント