「片付けって、“過去の自分”との交渉らしい」

遊びと趣味

「片付けってさ、“物を捨てる作業”じゃないんだよ」

 放課後。
 春は俺の部屋の床に座り込み、なぜかゲームの空箱を神妙な顔で見つめていた。

「じゃあ何だよ」

「“過去の自分との話し合い”」

「急に重いな」

 床には漫画、プリント、謎のコード類、片方だけの靴下。
 いわゆる、“男子高校生の部屋”が完成していた。

 春は靴下を拾い上げる。

「これとか絶対、“また使うかも”って思って残してるでしょ」

「まあ、一応」

「でも今のお前、片方しかない靴下を履く未来ある?」

「ないな」

「つまり過去の悠が、“未来の悠ならなんとかするだろ”って投げてる」

「最低な引き継ぎだな」

 春は満足そうにうなずいた。

「片付けって、“過去の自分が置いてった無責任”を処理することなんだよ」

「言い方が市役所の苦情窓口なんだよ」

 春は次に、机の下から出てきた古い参考書を持ち上げた。

「お、これ懐かしい。“絶対成績上がる英単語”」

「全然上がらなかったやつだ」

「でも捨てないんだ?」

「なんか、努力した感じあるし」

「わかる〜。人って“頑張った記憶”に弱いからね」

 春はぺらぺらページをめくる。

「うわ、落書きしてる。“眠い”って書いてある」

「授業中だったんだろ」

「しかも三回書いてる。“眠い”“眠い”“限界”」

「実況形式だったんだな」

 春が笑う。

「でもさ、人って面白いよね。“頑張った証拠”って、だいたい散らかってる」

「どういうことだよ」

「部屋もそうだし、机もそうだし、人生も」

「最後だけ急に雑誌のインタビューみたいになるな」

 春は空箱を頭に乗せた。

「だから片付けできない人って、実は優しいのかも」

「なんでそうなる」

「全部に思い出感じちゃうから。“ありがとう”って気持ちが渋滞してる」

「片付けを高速道路みたいに言うな」

「でも逆に、捨てられる人って“今の自分”を信じてる感じする」

 春はぽいっと空箱をゴミ袋に入れた。

「“なくても、また楽しくできる”って思ってる」

 少しだけ、部屋が広く見えた。

 春はそのまま床に寝転がる。

「……というわけで、片付け完了!」

「全然終わってないけど?」

「大丈夫。片付けって“やろうとした瞬間”が一番えらいから」

「それで許されたら世界中きれいだよ」

「でも実際、“片付けなきゃ”って思ってる部屋って、ちょっと希望あるじゃん」

「……まあ、ゴミ屋敷よりは」

「でしょ?」

 春は天井を見ながら笑った。

「人って、“まだ整えようとしてる途中”が一番人間っぽいのかもね」

「またなんか良いことっぽく言って終わろうとしてるな」

「じゃあ続きやる?」

「やらないのかよ」

「今日は“片付ける心”を整えた日だから」

「一番散らかるタイプの言い訳だな、それ」

 春は笑いながら、俺の漫画を勝手に読み始めた。

 そして五秒後には、新しい散らかりが始まっていた。

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