【女勇者フェルミノ 第6話】無料の地図が、一番高くつく

通行止めと開いた道の分岐で最新の地図を確認する黒髪のフェルミノ 女勇者フェルミノ

街道沿いの宿を出ようとしたフェルミノに、宿屋の主人が一枚の紙を差し出した。

「北の鉱山町へ行くなら、地図を持っていきな。無料だよ」

紙には街道と森、それから大きな一本杉が描かれていた。

「ありがとうございます。作成日は?」

「さあ。昔から入口に置いてあるからね」

「縮尺は?」

「縮尺?」

「この指一本分が、何キロに相当するのかという意味です」

主人は地図を見直した。

「歩けば、そのうち着くよ」

フェルミノは礼を言い、地図を鞄へ入れた。ただし、宿の向かいにある道具屋にも寄った。

壁には三種類の地図が並んでいる。

簡略地図は5ゴールド。街道だけが描かれている。

旅人用地図は25ゴールド。距離、水場、野営地、危険区域が記されている。

測量士の地図は80ゴールド。高低差まで分かる精密なものだった。

「鉱山町までなら、5ゴールドので十分ですよ」

店員の勧めに、フェルミノは尋ねた。

「最後に更新されたのは?」

「簡略版は三年前。旅人用は先月です」

「街道に変化は?」

「春の土砂崩れで、北側が通れません。新しい迂回路なら二時間ほど短くなります」

フェルミノは25ゴールドを払った。

店を出たところで、同じ宿に泊まっていた商人が声をかけてきた。

「地図に金を払ったのかい? 宿でもらえるのに」

彼の手には、先ほどの無料地図がある。

「無料なのは紙だけです」

「道なんて歩けば分かるさ」

二人は同じ方向へ出発した。

一時間後、道は二つに分かれた。無料地図には一本杉を右とある。ところが、見える範囲に杉は三本あった。

商人は一番大きな杉を指した。

「あれだろう」

「根拠は?」

「一番立派だから」

フェルミノの地図では、右の道に赤い斜線が引かれていた。

「そちらは土砂崩れで通行止めです」

「でも、無料地図では近道だ」

「近くても通れなければ、道ではありません」

商人は少し迷

森の分かれ道で地図を比べる女勇者フェルミノ
い、それでも右へ進んだ。フェルミノは左の迂回路を選ぶ。

迂回路には、一時間ごとの距離標が立っていた。二つ目の標識の先に井戸があり、さらに先には屋根付きの休憩所があった。

フェルミノは地図の余白へ記録する。

水の補充は無料。休憩所の利用も無料。日没前に町へ着ける。

夕方、鉱山町の門が見えた。

門番が彼女の地図を見て言う。

「新しい道を使ったんですね。今日は早かったでしょう」

「予定より十二分早く着きました」

「正確だなあ」

「十二分あれば、宿を比較できます」

町には一泊30ゴールドの宿と、門限を過ぎると50ゴールドになる宿があった。フェルミノは30ゴールドの方を選んだ。

日が沈んでから、あの商人が泥だらけで門へ駆け込んできた。

「通行止めの前まで行って、戻ってきたよ」

彼は水筒を空にし、途中で水を8ゴールドで買い、靴底を傷めていた。安い宿の受付も終わっている。

「結局、地図代より高くついた」

「いくらですか?」

「水が8、宿の差額が20。靴の修理は明日聞く」

フェルミノは手帳を開いた。

「現時点で28ゴールド。私の地図は25ゴールドです」

「三ゴールド負けた」

「時間と靴の修理費を含めれば、差は広がります」

「慰めてくれないのか」

「次に同じ損をしない情報の方が、慰めより価値があります」

商人は無料地図を見つめた。雨に濡れ、一本杉の絵がにじんでいる。

「これは捨てた方がいいかな」

「いいえ。古い情報の見本として残せます」

「役に立つ?」

「『無料だから正しいとは限らない』と覚えるには」

翌朝、商人は道具屋で新しい地図を買った。

フェルミノは自分の地図に、昨日見つけた井戸の状態を書き足す。正確な情報も、古くなれば危険になる。

紙の値段は25ゴールド。

けれど彼女が買ったのは紙ではない。

迷わず進める時間と、避けられる損失だった。

地図は、道を描く紙ではなく、無駄な遠回りを出発前に消してくれる道具なのだ。


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