古代遺跡へ向かう街道で、若い冒険者が大きな革袋を自慢していた。
袋の口には青い糸で魔法陣が縫い込まれている。
「見てください、勇者様。魔法の収納袋です」
彼は鉄鍋を袋へ入れた。鍋は底へ落ちる前に、光の粒になって消えた。
続いて毛布、予備の靴、木箱、折り畳んだ天幕まで入れていく。それでも袋は膨らまない。
「これなら、何でも持っていけます」
フェルミノは袋の口をのぞいた。内側には暗い空間が広がり、入れた道具が小さな星のように浮いている。
「取り出す時は?」
「欲しい物を考えて、手を入れれば出てきます」
冒険者は腕を入れた。
「回復薬」
取り出されたのは、片方だけの靴だった。
「今のは、少し考えが弱かっただけです」
二度目は空の水筒。三度目でようやく赤い小瓶が出てきた。
フェルミノは自分の道具袋を確かめる。左の外ポケットに回復薬、右に水筒、背面にロープ。中身は魔法の袋ほど多くないが、手を伸ばせば場所が分かる。
「入る量と、取り出せる速さは別ですね」
「でも、全部持てる方が安心です」
「全部を同時には使えません」
二人は遺跡へ入った。
石造りの通路には、崩れた柱や壊れた彫像が散らばっている。冒険者は見つけた物を次々と魔法の袋へ入れた。
欠けた銀皿。読めない石板。錆びた短剣。何かの骨。形のきれいな石。
「その石も必要ですか」
「あとで鑑定すれば、宝石かもしれません」
「街道にも同じ色の石がありました」
「遺跡にあると、価値がありそうに見えます」
「袋に入れると、さらに見えなくなります」
地下二階で、二人は細い石橋へ出た。下には暗い縦穴が続いている。
フェルミノが先に渡り、冒険者が後に続く。
橋の中央で、鈍い音がした。
冒険者の足元から石が崩れた。
「ロープ!」
彼は橋の縁につかまり、片手で魔法の袋へ腕を突っ込んだ。
「ロープ、ロープ、ロープ!」
最初に出てきたのは鉄鍋だった。
次は銀皿。その次は片方だけの靴。
「どうして靴が二回も出るんだ!」
「左右が別の道具として登録されているのでは」
「今、分析している場合ですか!」
フェルミノは背面の外ポケットからロープを抜き、橋の柱へ結んだ。反対側を冒険者へ投げる。

「右手でつかんでください」
「袋を離したら、全部落ちます」
「袋と自分の命を比べてください」
「袋の中に、今日の荷物が全部入っています」
「だから重さより判断が重くなっています」
冒険者は袋の口を歯でくわえ、右手でロープをつかんだ。
フェルミノは彼を安全な床まで引き上げた。
しばらく二人は、その場に座って息を整えた。
冒険者は魔法の袋から道具を一つずつ出し始める。
鉄鍋。銀皿。水筒。毛布。石板。短剣。骨。石。左の靴。右の靴。
「全部出すと、普通の荷物より散らかりますね」
「袋の中では、きれいに入っていたんです」
「見えない散らかり方をしていただけです」
フェルミノは床へ三つの場所を作った。
すぐ使う物。遺跡を出るまで使わない物。なぜ持っているのか説明できない物。
最後の場所には、骨と石と錆びた短剣が並んだ。
「説明できない物が、一番多いです」
「持てると思うと、判断を後回しにしてしまって」
「魔法の袋は、荷物の重さを消しても、選ぶ手間までは消しません」
冒険者は回復薬と水筒を腰の小袋へ移し、ロープを袋の外側へ結んだ。用途の分からない石は、元の通路へ戻した。
「これで、次はすぐ出せます」
「次に橋が崩れない道を選ぶ方が先です」
「それも袋に入れておけませんか」
「判断力は収納できません」
遺跡を出るころ、魔法の袋は来た時より中身が少なくなっていた。
けれど冒険者の足取りは、入る物が増えた時より軽かった。
便利な道具は、持てる物を増やしてくれる。
だからこそ、持たなくていい物まで増やさない工夫が必要になる。
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