【女勇者フェルミノ 第17話】魔法の袋は、探す時間まで軽くしない

女勇者フェルミノ第17話の表紙。【女勇者フェルミノ 第17話】魔法の袋は、探す時間まで軽くしない 女勇者フェルミノ

古代遺跡へ向かう街道で、若い冒険者が大きな革袋を自慢していた。

袋の口には青い糸で魔法陣が縫い込まれている。

「見てください、勇者様。魔法の収納袋です」

彼は鉄鍋を袋へ入れた。鍋は底へ落ちる前に、光の粒になって消えた。

続いて毛布、予備の靴、木箱、折り畳んだ天幕まで入れていく。それでも袋は膨らまない。

「これなら、何でも持っていけます」

フェルミノは袋の口をのぞいた。内側には暗い空間が広がり、入れた道具が小さな星のように浮いている。

「取り出す時は?」

「欲しい物を考えて、手を入れれば出てきます」

冒険者は腕を入れた。

「回復薬」

取り出されたのは、片方だけの靴だった。

「今のは、少し考えが弱かっただけです」

二度目は空の水筒。三度目でようやく赤い小瓶が出てきた。

フェルミノは自分の道具袋を確かめる。左の外ポケットに回復薬、右に水筒、背面にロープ。中身は魔法の袋ほど多くないが、手を伸ばせば場所が分かる。

「入る量と、取り出せる速さは別ですね」

「でも、全部持てる方が安心です」

「全部を同時には使えません」

二人は遺跡へ入った。

石造りの通路には、崩れた柱や壊れた彫像が散らばっている。冒険者は見つけた物を次々と魔法の袋へ入れた。

欠けた銀皿。読めない石板。錆びた短剣。何かの骨。形のきれいな石。

「その石も必要ですか」

「あとで鑑定すれば、宝石かもしれません」

「街道にも同じ色の石がありました」

「遺跡にあると、価値がありそうに見えます」

「袋に入れると、さらに見えなくなります」

地下二階で、二人は細い石橋へ出た。下には暗い縦穴が続いている。

フェルミノが先に渡り、冒険者が後に続く。

橋の中央で、鈍い音がした。

冒険者の足元から石が崩れた。

「ロープ!」

彼は橋の縁につかまり、片手で魔法の袋へ腕を突っ込んだ。

「ロープ、ロープ、ロープ!」

最初に出てきたのは鉄鍋だった。

次は銀皿。その次は片方だけの靴。

「どうして靴が二回も出るんだ!」

「左右が別の道具として登録されているのでは」

「今、分析している場合ですか!」

フェルミノは背面の外ポケットからロープを抜き、橋の柱へ結んだ。反対側を冒険者へ投げる。

崩れた石橋で若い冒険者へロープを投げる女勇者フェルミノ

「右手でつかんでください」

「袋を離したら、全部落ちます」

「袋と自分の命を比べてください」

「袋の中に、今日の荷物が全部入っています」

「だから重さより判断が重くなっています」

冒険者は袋の口を歯でくわえ、右手でロープをつかんだ。

フェルミノは彼を安全な床まで引き上げた。

しばらく二人は、その場に座って息を整えた。

冒険者は魔法の袋から道具を一つずつ出し始める。

鉄鍋。銀皿。水筒。毛布。石板。短剣。骨。石。左の靴。右の靴。

「全部出すと、普通の荷物より散らかりますね」

「袋の中では、きれいに入っていたんです」

「見えない散らかり方をしていただけです」

フェルミノは床へ三つの場所を作った。

すぐ使う物。遺跡を出るまで使わない物。なぜ持っているのか説明できない物。

最後の場所には、骨と石と錆びた短剣が並んだ。

「説明できない物が、一番多いです」

「持てると思うと、判断を後回しにしてしまって」

「魔法の袋は、荷物の重さを消しても、選ぶ手間までは消しません」

冒険者は回復薬と水筒を腰の小袋へ移し、ロープを袋の外側へ結んだ。用途の分からない石は、元の通路へ戻した。

「これで、次はすぐ出せます」

「次に橋が崩れない道を選ぶ方が先です」

「それも袋に入れておけませんか」

「判断力は収納できません」

遺跡を出るころ、魔法の袋は来た時より中身が少なくなっていた。

けれど冒険者の足取りは、入る物が増えた時より軽かった。

便利な道具は、持てる物を増やしてくれる。

だからこそ、持たなくていい物まで増やさない工夫が必要になる。


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