鉱山跡の入口には、小さな道具屋があった。
店先には二種類のたいまつが並んでいる。
一本五ゴールドの短いものと、一本十二ゴールドの長いもの。
「安い方を二本ください」
フェルミノより先に並んでいた若い冒険者が、迷わず銅貨を置いた。
店主は短いたいまつを二本渡しながら言った。
「一本で四十分くらいだ。奥の採掘場まで往復するなら、長い方が安心だぞ」
「二本なら八十分です。長い方一本より二ゴールド安い」
冒険者は得意そうに笑った。
フェルミノは壁に貼られた坑道図を見る。入口から旧採掘場まで、迷わなくても片道三十分。途中には崩れた足場と、魔物が出る横穴がある。
「八十分には、帰り道も入っていますか」
「往復六十分だから、二十分余ります」
「火を移す時間と、戦う時間と、迷う時間は?」
「迷わなければ大丈夫です」
「迷う人は、迷う予定を立てません」
フェルミノは十二ゴールドの長いたいまつを一本買った。燃焼時間は二時間。金具の受け皿がついていて、燃えた樹脂が手に垂れにくい。
「勇者様なのに、高い方を買うんですね」
「暗闇で安い方を探し直す費用より安いです」
二人は同じ坑道へ入った。
壁は湿り、天井から落ちる水が足元の石を黒く光らせている。短いたいまつの炎は勢いよく燃え、冒険者は明るさを自慢した。
「ほら、安くても十分明るいです」
「最初は、ですね」
旧採掘場の手前で、岩陰からコウモリ型の魔物が飛び出した。
冒険者はたいまつを振り回して追い払おうとした。炎から赤い樹脂が飛び、彼は慌てて手を引く。
「熱っ!」
フェルミノはたいまつを壁の金具へ掛け、剣を抜いた。光を固定したまま、飛び込んできた魔物を一体ずつ斬り落とす。
戦いが終わるころ、短いたいまつは半分以下になっていた。
「思ったより燃えましたね」
「振れば酸素が増えます。明るくなる分、早く減ります」
「たいまつにも勢いの料金があるんですか」
「料金ではなく、残り時間です」
採掘場で目的の青い鉱石を見つけ、二人は引き返した。
冒険者は二本目のたいまつへ火を移そうとしたが、芯が湿っていた。火口へ近づけても、白い煙が出るだけで炎がつかない。
「店では乾いていたのに」
「坑道の中は湿っています」
一本目の炎が小さくなった。
暗がりで水の流れる音がする。帰り道は同じはずなのに、枝分かれが行きより多く見えた。
「勇者様。どちらでしたっけ」
「右です」
「すぐ答えられるんですね」
「入る時に、曲がり角の数を数えました」
フェルミノの長いたいまつは、まだ安定して燃えている。その火で冒険者の二本目をしばらく温めると、ようやく芯に炎がついた。

「助かりました。結局、二本で十ゴールドですけど」
「その二本目は、私の光がなければ使えませんでした」
「では、実質いくらでしょう」
「暗闇で計算を始めないでください」
入口へ戻った時、冒険者のたいまつは握りこぶしほどの長さしか残っていなかった。
フェルミノの方は、まだ半分以上ある。
「余りましたね。少しもったいなくないですか」
フェルミノは火を消し、残ったたいまつを布で包んだ。
「次に使えます」
「安い方も、一本余る予定だったんです」
「予定は燃料になりません」
冒険者は短くなった二本を見比べ、次の買い物では長い方の値札を確かめた。
たいまつは、目の前を明るくする道具だ。
けれど必要なのは、入口で一番明るい火ではない。
出口まで消えない見通しだった。
このシリーズを続けて読む
シリーズを順番に読む

コメント