【女勇者フェルミノ 第19話】橋の通行料は、遠回りより安い

有料の石橋と無料の迂回路を見比べる黒髪の女勇者フェルミノ 女勇者フェルミノ

山道の分かれ目に、二つの看板が立っていた。

右は、渓谷に架かる石橋。

『通行料 二十ゴールド。向こう岸まで五分』

左は、谷を大きく回る細い道。

『無料。向こう岸まで三時間』

フェルミノは二枚の看板を見比べた。

「無料の方へ行きます」

隣にいた若い冒険者が、迷わず左を指した。

「三時間かかりますよ」

「でも、二十ゴールド浮きます」

「水と食事は持っていますか」

「水筒が一本と、昼のパンが一つです」

「それは、橋を渡るなら十分です」

冒険者は胸を張った。

「少しくらい歩けます。旅人ですから」

「少しくらい、の単位が三時間なのですね」

フェルミノは橋の料金所へ向かった。

番人へ二十ゴールドを渡すと、木札を一枚受け取る。

橋は頑丈な石造りで、両側に腰の高さまで欄干があった。谷底から強い風が吹き上がってくるが、足場は平らで歩きやすい。

五分後、フェルミノは向こう岸へ着いた。

目的の町までは、そこから一時間ほどだった。

ところが町へ入る前に、道端のベンチで見覚えのある冒険者を見つけた。

泥だらけの靴を脱ぎ、空の水筒を振っている。

「三時間の道ではありませんでしたか」

「二時間歩いたところで、崖崩れでした」

「戻ってきたのですね」

「戻るしかありませんでした」

冒険者は疲れた顔で、橋を振り返った。

「結局、橋を渡りました。合計で四時間と二十ゴールドです」

「パンは?」

「途中で食べました」

「水は?」

「途中で飲みました」

「では、浮いたものはありませんね」

「疲れは増えました」

「それは無料ではありません」

石橋の対岸で疲れた冒険者へ地図を示す女勇者フェルミノ

フェルミノは地図を広げた。

迂回路には、小さく『雨天時通行止めの場合あり』と書かれている。今朝まで降っていた雨で、地面が崩れたらしい。

「看板には書いてありませんでした」

「道の入口にある説明だけで、道の最後まで保証されるとは限りません」

「でも、通れる日なら無料です」

「はい。ただし、三時間分の水と食事、日没までの余裕、靴の消耗、それから道が使えなかった時の戻り時間が必要です」

冒険者は泥のついた靴底を見た。

「全部合わせると、二十ゴールドより高いですか」

「今日は確実に」

「勇者様は、時間にもお金を払うんですね」

「時間そのものではありません」

フェルミノは橋の向こうに傾き始めた太陽を見た。

「明るいうちに町へ着けることへ払いました」

日が落ちれば、山道には魔物が出る。

戦えば武器が傷み、けがをすれば薬が要る。野営になれば食料も必要になる。

二十ゴールドは、五分のためだけの料金ではなかった。

冒険者は立ち上がり、空の水筒を荷物へ戻した。

「次からは、無料の道を選ぶ前に地図を見ます」

「それがいいと思います」

「地図を持っていなかったら?」

「橋を渡ってください」

「地図代より安そうですね」

「その比較は、以前にもしました」

フェルミノは町へ歩き出した。

無料の道は、料金を取らない。

けれど、時間も体力も、帰り道まで無料にしてくれるわけではない。

橋の通行料は、向こう岸までの五分だけでなく、予定どおり先へ進める確かさの値段だった。

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