放課後、調理実習室の掃除当番が回ってきた。
俺が流しの水気を拭いていると、春は教室の端にある冷蔵庫を開けた。
白い明かりが、並んだ調味料と麦茶のボトルを照らす。
春は閉めた。
すぐに、また開けた。
「ねぇ悠」
「やめろよ」
「まだ何も言ってないよ」
「冷蔵庫を二回開けた人の相談は、だいたい閉めろで合ってる」
春は渋々扉を閉じた。
「中の明かりって、閉めた後もちゃんと消えてるのかな」
「消えてる」
「見たことある?」
「閉まってたら見えないだろ」
「それ、冷蔵庫を信じてるだけじゃない?」
春は扉と本体の隙間へ顔を近づけた。
「閉まる直前までは光ってる。でも、完全に閉じた瞬間は誰も見られない」
「扉のスイッチで消えるからな」
「じゃあ、見る方法はないの?」
俺は春の横から手を伸ばし、扉の付け根近くにある小さなボタンを押した。
明かりが消える。

手を離すと、またついた。
「これを扉が押す」
春はボタンを見つめた。
「じゃあ、閉めたら消えるのは本当なんだ」
「最初からそう言ってる」
「でも、私たちが見てる間だけ明るくするんだね」
「中身を見るための明かりだからな」
春はボタンを自分の指で何度か押した。押すたびに明かりが消え、離すたびにつく。
「扉は、このボタンをずっと押してるってこと?」
「閉まってる間はな」
「じゃあ扉って、暗くする係なんだ」
「冷気を閉じ込める係だよ」
春はうなずき、ゆっくり扉を閉めた。
ただし、あと一センチのところで止めた。
細い隙間から、中をのぞき込む。
「どうした」
「消える瞬間を見張ってる」
「閉めないと、その瞬間は来ないぞ」
春はしばらく粘ったあと、無言で扉を閉めた。
そして三秒後、また開けた。
「やっぱり消えてた!」
「その確認方法では、永遠に分からない」
このシリーズを続けて読む
シリーズを順番に読む

コメント