六時間目の終わりのチャイムが鳴った。
教室では、みんなが教科書を閉じかけている。けれど先生は、まだ黒板に式を書き続けていた。
「……効いてない」
「何が」
「チャイム。先生にだけ効いてない」
「薬じゃないから、効くとかじゃない」
「でも休み時間の終わりは、鳴ったら全員席へ戻るよ」
「次の授業が始まるからだろ」
春は半分閉じた鞄へ筆箱を入れた。
「授業終わりのチャイムで、先生も止まらないと不公平じゃない?」
「終了を知らせる合図で、先生を止める命令じゃない」
「生徒には命令みたいに聞こえるのに」
春は天井のスピーカーを見る。
「同じ音なのに、聞く人で効き方が違うんだね」
「意味は同じだ。反応が違うだけ」
先生は最後の式を書き足している。

春は黒板へ両手を合わせた。
「授業終了のお知らせです。どうかチョークを置いてください」
「チャイムの代わりにお願いするな」
ようやく先生がチョークを置いた。
「では、今日の授業はここまで」
春の顔がぱっと明るくなる。
「あと、連絡が一つあります」
教室中の動きが止まった。
春はもう一度スピーカーを見上げる。
「チャイム、今日は完全に負けたね」
「春には効いてるけどな」
「私はちゃんと帰る準備したよ」
「効きすぎて、まだ帰れてない」

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