放課後、春と悠は駅前のバス停で帰りのバスを待っていた。
ベンチの横には細長い標識が立ち、その上に「南町三丁目」と書かれている。
春は標識を見上げてから、道路の向こうへ目をやった。
「ねぇ悠。ここ、バス停だよね」
「そう書いてあるな」
「なのに、バスがいない」
「まだ来てないからな」
「バスがいない時間の方が長くない?」
悠は時刻表を見る。次の便まで、あと六分だった。
「長いだろうな」
「じゃあここ、ほとんど人停じゃない?」
「人を停める場所ではない」
春はベンチに座っている三人と、立って待っている自分たちを順番に見た。
「今、五人いるよ。バスはゼロ台」
「数で決めるな」

「しかも私たちは六分いる。バスは来ても一分くらいで行っちゃう」
「乗せたら出発するからな」
「自分の名前が付いた場所なのに、いちばん滞在時間が短いんだ」
「店長がずっと店にいるとは限らないだろ」
「でも店長が一分で帰ったら心配になるよ」
「バスが一時間いたら、もっと心配だよ」
春は納得しかけて、また標識を見た。
「じゃあバス停って、バスが休む場所じゃなくて、私たちがバスを待つ場所なんだね」
「最初からそうだよ」
「名前を付けるなら『バス待ち』の方が正確じゃない?」
「命令みたいだな」
「『バス、待ち!』」
「待つのはこっちだ」
遠くの交差点を、青い路線バスが曲がってきた。
春が立ち上がる。
「来た。これでやっとバス停になる」
バスは停留所の前で止まり、前の扉を開けた。
降りる人が二人。乗る人が五人。
春と悠が乗り込むと、扉は閉まり、バスはすぐに走り出した。
春は空いた席へ座り、窓の外の標識を振り返った。
「もうバス停じゃなくなった」
「次のバスが来るまでな」
「また人停に戻ったね」
「その名前は採用されてない」
バスが次の交差点へ差しかかったところで、春は窓に顔を近づけた。
「でも今度は、私たちがバスに停められてる」
「座ってるだけだろ」
車内アナウンスが、次の停留所を告げた。
春は立ち上がろうとした。
「まだ降りないぞ」
「バス停って聞いたら、止まる準備しないと」
「二つ先まで座ってろ」
バスより先に、春の方が停まっていられなかった。

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