【女勇者フェルミノ 第23話】落とし物は、拾った瞬間に戦利品にならない

街道に落ちた革袋を拾う若い冒険者を、少し離れて確認する黒髪の女勇者フェルミノ 女勇者フェルミノ
街道に落ちた革袋を拾う若い冒険者を、少し離れて確認する黒髪の女勇者フェルミノ

街道の脇に、茶色い革袋が落ちていた。

フェルミノが足を止めるより先に、後ろを歩いていた若い冒険者が駆け寄った。

「戦利品だ!」

彼は革袋を持ち上げた。中で硬貨が鳴る。

フェルミノは周囲を見渡した。

魔物の姿はない。壊れた荷車も、争った跡もない。道の先には、町へ向かう馬車のわだちが続いている。

「何と戦ったのですか」

「え?」

「戦利品なのでしょう」

「いや、拾っただけだけど」

「では、落とし物です」

若い冒険者は袋を開き、銀貨を一枚だけのぞかせた。

「でも街道で見つけた物は、見つけた人の物じゃないのか?」

「宝箱なら、そういう場合もあります」

「袋も箱も、入れ物だろ」

「持ち主が運んでいる途中で落とした入れ物は、宝箱とは呼びません」

フェルミノは袋を受け取り、口を閉じた。

外側には、小さな粉ひき車の印が焼き付けられている。

「次の町の製粉所の印です」

「よく知ってるな」

「朝食用のパンが、あの製粉所の小麦でした」

「勇者って、そんなところまで覚えてるのか」

「代金を払った物は覚えています」

二人は街道を戻らず、そのまま次の町へ向かった。製粉所は町の門からほど近い場所にあった。

店先では、粉まみれの男が荷台の下をのぞき込んでいる。

フェルミノが革袋を見せると、男は勢いよく立ち上がった。

「それだ! 小麦の仕入れ代が入ってる!」

製粉所の店先で、持ち主へ硬貨入りの革袋を返すフェルミノ

袋の中身を一緒に確かめる。銀貨と銅貨を合わせて、二百ゴールド。男が帳面に書いていた金額とも一致した。

「助かった。これがなかったら、明日の粉が買えないところだった」

男は袋から二十五ゴールドを取り出し、フェルミノへ差し出した。

「謝礼だ。受け取ってくれ」

フェルミノは金額を確かめてから受け取った。

若い冒険者が小声で尋ねる。

「返すのに、お金はもらっていいのか?」

「これは持ち主が決めた謝礼です」

「拾った時に一枚もらうのと、何が違うんだ?」

「誰が決めたかが違います」

男は大きくうなずいた。

「そうだ。勝手に一枚抜かれたら、二百ゴールドそろわない」

「じゃあ、最初に一枚取って、残りを届けたら謝礼は……」

「窃盗の確認から始まります」

若い冒険者は黙った。

製粉所を出ると、焼きたてのパンの匂いが通りまで流れてきた。

フェルミノは受け取った二十五ゴールドを財布へ入れる。

「落とし物を届けると、ちゃんと報酬になることもあるんだな」

「報酬がなくても届けます」

「でも今回は得しただろ?」

フェルミノは製粉所の看板と、通りの先の宿屋を見比べた。

「はい。町へ向かう予定は変わらず、追加の移動もありませんでした」

「そこを先に計算するのか」

「親切は無料でも、遠回りは無料ではありません」

若い冒険者はしばらく考え、それから街道の脇を見回した。

「もう一個、落ちてないかな」

「それは親切ではなく、収入源を探しています」

フェルミノは歩き出した。

彼は慌てて追いかけたが、今度は道に落ちた物より、前を歩く人の荷物をよく見るようになった。


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