
放課後の音楽室で、春と悠は合唱練習の片づけをしていた。
机の上では、誰かが止め忘れたメトロノームが、カチ、カチと鳴っている。
春は楽譜を閉じかけて、手を止めた。
「ねぇ悠。ここ、二拍休むところだよね」
「そうだな」
「なのに、この子は休まないの?」
春が指さした先で、振り子は一拍も欠かさず左右に揺れていた。
「メトロノームは楽譜を読んでないから」
「私たちだけ休んで、あの子には働かせてるんだ」
「音を出さない二拍も数えるために鳴ってるんだよ」
春は楽譜を開き直した。机を指先で軽くたたき、メロディーの終わりから数える。
「いち、に。ここから休符」
春が口を閉じる。メトロノームはカチ、カチと続けた。
「静かにする係が、一番うるさい」
「お前が今しゃべったからな」
「だって、私が休んでるか見張ってるみたいで」
「見てない。ただ揺れてる」
春はもう一度やってみた。歌うのをやめて、振り子に合わせて指を二本折る。そして、ちょうど次の拍で声を出した。

「あ、戻れた」
「だろ」
「休んでる間も、時間だけは進んでたんだね」
「二拍分な」
春はメトロノームの上に手を添え、振り子をそっと止めた。音楽室が急に静かになる。
「じゃあ、片づけが終わったから、今度はあの子の休符」
「長めのな」
二人は楽譜を棚へ戻した。春は出口の前で立ち止まり、指を二本折る。
「いち、に。もう話していい?」
「誰も休符を指定してないよ」
「つい数えちゃった」
メトロノームはもう鳴らない。代わりに、廊下へ出た春の足音が、カチ、カチと二拍続いた。

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