「ねえ悠」
放課後のコンビニで、春はカップ焼きそばを見つめながら言った。
「人生って、“ファイナルアンサー?”って聞かれる回数、多すぎない?」
「急に『クイズミリオネア』みたいな話するな」
「だってさ。進路希望もそうだし、提出物もそうだし、“本当にこれでいいですか?”ってずっと聞かれてる感じする」
春は真剣な顔で棚を見つめる。
「今もすごい悩んでる」
「焼きそばで?」
「塩かソースか」
「平和だな」
六月の夕方だった。
コンビニの冷房は少し強くて、外から入ると一瞬だけ世界が別になる。
春は腕を組み、真面目に棚の前で唸っていた。
「でもさ悠、人って“選ばなかった方”をずっと考える生き物じゃない?」
「まあ、それは分かるけど」
「塩を選んだ瞬間、ソースの未来が消える」
「焼きそばに壮大な運命を背負わせるな」
「でも本当にそうだよ? 人生って、“別ルートを想像する能力”があるから悩むんだと思う」
春はそう言って、ソース味を手に取った。
「……決まったのか?」
「ううん。今、塩味の気持ちになってきた」
「早いな揺らぐの」
「だって塩って、“信じてる人”しか選ばない感じあるじゃん」
「何その偏見」
「ソースは“絶対おいしいです!”って自己主張強いけど、塩は“まあ、分かる人だけで”って顔してる」
「焼きそばをバーのマスターみたいに語るな」
春は笑いながら、今度は塩を持った。
「悠はどっち?」
「ソース」
「うわ、安定を選んだ」
「別にいいだろ安定で」
「でも悠って、“絶対失敗しない方”を選びがちだよね」
「……まあ、そうかもな」
「私は逆に、“ちょっと気になる方”を選びたい」
春は塩焼きそばをカゴに入れた。
「外れたら嫌じゃないのか」
「嫌だよ」
「嫌なんだ」
「でも、“外れた記憶”って、後でめっちゃ話になるじゃん」
「前向きだなあ」
「人生、ちょっとくらいネタになった方が楽しいし」
春はそう言って笑った。
その顔は、本当に楽しそうだった。
たぶん春は、正解を引きたいんじゃない。
“選ぶこと”自体を楽しんでいる。
「ねえ悠」
「ん?」
「人って、“ファイナルアンサー?”って聞かれるから緊張するんだと思う」
「まあな」
「でも実際、人生ってわりと“変更できます”多くない?」
「……あー」
「進路も、仕事も、髪型も、案外あとで変えられる」
「焼きそばの味ですら途中で交換できるしな」
「そう! だからたぶん、“今の答え”でしかないんだよ」
春は急に嬉しそうにレジへ向かった。
「じゃあ今日は塩でいく!」
「結局それなんだ」
「うん。今の私は塩って感じするから」
「天気みたいに決めるな」
レジを済ませたあと、春は店を出ながら言った。
「でもさ」
「ん?」
「もし失敗しても、“やっぱソースだったか〜”って笑える人生の方が、なんか好き」
夕方の風が少しだけ吹いた。
春の髪が揺れる。
たぶんこいつは、一生こんな感じなんだろう。
悩んで、迷って、でも最後は楽しそうに選ぶ。
そのせいで、隣にいる僕まで少しだけ、
“どっちでもいいか”と思わされる。
「で、悠は何買ったの?」
「おにぎり」
「ファイナルアンサー?」
「おにぎりにそこまで覚悟ないよ」



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