「ねえ悠」
帰り道、春が急にスマホを掲げた。
「スマホの充電1%って、人間の本性出るよね」
「急に怖い話始めるな」
「だってさ、普段はどうでもいい動画とか見てるのに、1%になると急に慎重になるじゃん」
「あー……まあ、それは分かる」
「“今、本当に必要なこと”だけやるようになるの」
春は真顔で頷いた。
「人類、全員ずっと充電1%で生きれば平和なのでは?」
「不便すぎるだろ」
「無駄な争い減るよ」
「まず連絡取れなくなるわ」
「でも絶対こうなる」
春はスマホを見ながら再現し始めた。
「充電80%の人」
春はダラっとした声を出す。
「“あとで返せばいっか〜”」
「腹立つ再現うまいな」
「で、1%になると」
春は急に姿勢を正した。
「“この一通に、すべてを託す……”」
「壮大すぎるだろ」
「LINE一件に命かけ始める」
「まあ優先順位は考えるな」
「あと画面めっちゃ暗くする」
「する」
「急に低姿勢になる」
「スマホが?」
「人間が」
春はしみじみ頷いた。
「“もう明るさとか求めません……”ってなる」
「ただの節電だよ」
「充電ある時の人類、強気すぎるんだよ」
「なんの話?」
「“通知全部見る!”“動画も見る!”“ゲームもする!”って欲望に満ちてる」
「まあ便利だからな」
「でも1%になると、“生き残る”が最優先になる」
「遭難者みたいに言うな」
春は笑いながらスマホをポケットにしまった。
「でもさ、なんか好きなんだよね」
「何が」
「1%の時って、“大事なもの”がハッキリする感じ」
「……例えば?」
「誰に返事するかとか。何を調べるかとか」
「まあ、確かに」
「人って余裕あると、いろんなもの増やしちゃうけど」
春は空を見上げた。
「ギリギリになると、“本当に必要なもの”だけ残るんだね」
「お前、スマホの充電から人生学ぶな」
「だって先生だから」
「お前は先生じゃない」
「気持ちは先生」
「一番信用できないタイプの先生だな」
その瞬間。
春のスマホが静かに暗転した。
「あ」
「切れたな」
春は黒くなった画面を見て、なぜか満足そうに笑った。
「最後に天気見れたから勝ち」
「基準ちっちゃ」
「でも、充電0%って、“お疲れ様でした”感あるよね」
「スマホに感情移入しすぎだろ」
「今日も一日働いたんだよ」
「まあ、お前に振り回されてはいたな」
「えへへ」
春はスマホをカバンに入れた。
それから、少しだけ周りを見回す。
「あ、見て悠」
「ん?」
「紫陽花咲いてる」
本当に小さな花だった。
春は少し嬉しそうに笑う。
「スマホ切れると、急に周り見るようになるね」
「……それはあるかもな」
「つまり充電0%は、現実ログインってこと?」
「その言い方すると現実やりたくなくなるな」
春は吹き出した。
その笑い声が、夜の住宅街にゆっくり溶けていった。



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