「ねえ悠。勇者って、何を基準に選ばれてると思う?」
放課後、コンビニの前だった。
春はアイスを片手に、急に世界の核心みたいなことを言い始めた。
「知らないけど。剣抜いたやつとかじゃないの」
「でもさ、あれ絶対“たまたま抜けた人”いるよね」
「夢壊すな」
春はガリガリ君を噛みながら、遠くを見る。
「だって、あの剣って岩に刺さってるんでしょ? たまたま体重かけた方向が良かったとかあるって」
「そんな偶然で世界救われたら嫌だな」
「でも逆に安心しない? “選ばれし者のみ”より、“なんか抜けちゃった人”の方が人類っぽい」
「人類っぽさで魔王に勝てるのか?」
「勢いでいける時あるよ」
「お前の人生観、全部“勢い”で説明されるな」
夕方だった。
道路の向こうで、小学生がランドセル振り回して走っている。
コンビニの自動ドアが開くたびに、唐揚げの匂いが流れてきた。
春はベンチに座って、足をぶらぶらさせる。
「悠ってさ、“勇者っぽい人”いる?」
「急に雑な質問だな」
「この人、勇者適性あるなーみたいな」
「……行動力あるやつとか?」
「なるほど」
「逆に春は?」
「私はね、“ちゃんとコンビニで『ありがとうございます』言う人”」
「規模が小さい」
「いや、でも世界ってああいうので保たれてる気がする」
「魔王倒せなさそうな世界だな」
「でも魔王って、たぶん“嫌な空気”みたいなもんだよ」
「抽象化し始めたな」
春は真面目な顔で続けた。
「例えばさ。レジの人が無愛想で、お客さんも無言で、お互い疲れてて。ああいう空気って、ちょっと世界を悪くするじゃん」
「まあ……分からなくはない」
「そこに一人、“ありがとうございました!”って言う人がいると、ちょっと空気変わるんだよ」
「小規模勇者だ」
「町の入り口付近にいるタイプ」
「最初の村から出てないな」
春は笑った。
「でも、最初の村って大事だよ。HP回復できるし」
「現実に宿屋システム持ち込むな」
「悠も回復ポイントっぽいし」
「嫌な言い方だなそれ」
「“話しかけると安心する人”っているじゃん」
「RPGみたいに言うな」
「『おかえり、今日は風が強いね』って言ってくれるおばあちゃん系NPC」
「限定的すぎる」
「でも人気あるよ。たぶん隠しイベント持ってる」
「お前、人間関係をゲームで解釈しすぎだろ」
春はアイスの棒を見つめた。
「……でもさ」
「ん?」
「勇者って、“強い人”じゃなくて、“前に進む人”なのかもね」
「急にそれっぽいこと言うな」
「だって、怖くても進むじゃん。ゲームの主人公って」
「まあ、そうだな」
「私だったら、洞窟の時点で一回帰るもん」
「勇者失格じゃねえか」
「“今日は洞窟の湿気が嫌だから”って理由で帰る」
「魔王が困惑するタイプ」
「でも次の日また行くよ」
「行くんだ」
「うん。“昨日ちょっと嫌だった”で終わると、なんか悔しいし」
春はそう言って立ち上がった。
ちょうど空になったアイスの袋を、ゴミ箱に投げる。
外れて、落ちた。
「あ、勇者失敗した」
「ちゃんと拾え」
「リベンジするから待って」
「そういうとこだけ主人公気質なんだよな……」
春は袋を拾って、今度はちゃんとゴミ箱に入れた。
ぱこん、と軽い音がする。
春は満足そうに笑った。
「よし。世界救った」
「コンビニ前限定の平和だな」
「でも半径三メートルくらいは、ちょっと良くなったよ」
夕方の風が吹く。
コンビニの旗が、ばさばさ揺れていた。
春はその旗を見ながら、なぜか得意げだった。
「勇者って、案外ああいう感じかもね」
「どんな?」
「すごいことする人じゃなくて、“ちょっと空気を良くする人”」
「……」
「まあ私は今、ゴミ箱成功しただけだけど」
「スケール小さいな」
「でもゼロよりは世界救ってる」
「その理論だと、毎日かなり勇者いるぞ」
春は嬉しそうに笑った。
「じゃあ世界、思ったより平和じゃん」



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