「悠。タイムマシンって、絶対ちょっと遅れるよね」
朝だった。
登校中の坂道で、春はいつものようにパンをくわえていた。
今どき漫画でも見ないスタイルだった。
「なんでだよ」
「だって未来の技術だよ? “すごいです!”って顔してる機械ほど、アップデート長いじゃん」
「タイムマシンをスマホみたいに言うな」
春は真剣な顔で頷いた。
「“目的の時代へ移動しています…残り二時間”とか出る」
「致命的だろ」
「しかも途中で、“より快適な時間移動のため再起動します”ってなる」
「未来、終わってんな」
春は笑いながら、電柱の影をぴょんと踏んだ。
「でもさ、悠」
「ん?」
「タイムマシンって、“過去に行ける”より、“待てる”のがすごいと思うんだよね」
「……どういう意味だ」
「例えば、“来週のテスト嫌だなー”って時にさ」
「まあ嫌だな」
「タイムマシンで一週間後に飛べば、一瞬で終わるじゃん」
「便利だな」
「でも、その一週間を頑張った自分は存在してるわけでしょ?」
「まあ理論上はな」
「つまり、“頑張り”だけ自分に押しつけて、結果だけ受け取ってる」
「急に倫理の授業始まったな」
春はパンをもぐもぐしながら続けた。
「だからタイムマシンって、“未来へ行く機械”じゃなくて、“責任を置いて逃げる機械”かもしれない」
「言い方」
「でも絶対あるよ。“夏休みの宿題、最終日に未来へ逃げた人”」
「未来の自分が泣くだけだろ」
「未来の自分、“なんで毎年オレなんだよ!”ってキレてる」
「毎年押しつけてんのかよ」
春は急に立ち止まった。
道端の自販機をじっと見ている。
「……どうした」
「もしタイムマシンがあったらさ」
「うん」
「未来の私、絶対“今の自分に炭酸飲むな”って言いに来る」
「健康面か」
「いや、“開けた瞬間に吹き出すから”」
「しょうもな」
「でも未来の私は知ってるわけじゃん。“この缶は振られている”という歴史を」
「歴史の使い方が軽い」
春は自販機の前で腕を組んだ。
「タイムマシンって、“重大な歴史改変”より、“しょうもない失敗回避”に使われる気がするんだよね」
「まあ実際そうかもしれないな」
「“プリン勝手に食べたのバレる五分前”とか」
「スケールが小さい」
「“このあと絶対『送信しますか?』で間違えて押す”とか」
「あー、それはちょっと戻りたい時ある」
「でしょ?」
春は嬉しそうに笑った。
「人類って、“世界を救いたい”より、“気まずさを消したい”の方が強いと思う」
「否定できないのやめろ」
ちょうどその時、学校のチャイムが遠くで鳴った。
春は目を丸くする。
「やば」
「ほら遅刻だ」
「でも大丈夫」
「なんで」
春はにやっと笑った。
「今この瞬間、“未来の私がなんとかしてくれる”って信じてるから」
「お前、それタイムマシン関係なく現実逃避だろ」
「違うよ」
春は坂を駆け上がりながら振り返る。
「未来って、“まだ失敗してない自分”だから!」
「名言っぽく言うな!」
そのまま春は笑いながら走っていった。
数秒後。
「あ、悠ー!」
「なんだ!」
「未来の私、上履き忘れてた!」
「全然なんとかできてねぇ!」



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