【女勇者フェルミノ 第5話】一番高い剣が、一番お得とは限らない

武器屋で三本の剣を比較する黒髪のフェルミノ 女勇者フェルミノ

王都の武器屋で、店主は三本の剣を並べた。

「勇者様におすすめするなら、この聖銀の剣です。価格は1200ゴールド」

磨かれた刀身に青い光が走る。見るからに強そうだった。

フェルミノは値札を見て、次の剣へ視線を移した。

「こちらは?」

「鋼の剣。450ゴールドです」

「その隣は?」

「鉄の剣。180ゴールド。でも、勇者様が使う品ではありませんよ」

フェルミノは三本を同じ順番で持ち上げた。重さ、握り、刃の厚さを確かめる。

「聖銀の剣の攻撃力は?」

「鋼の剣より約3割上です。聖属性も付きます」

「耐久性は?」

「高いですが、専門の職人でなければ研げません」

「一回の整備費は?」

店主が少し声を小さくした。

「80ゴールドほど」

フェルミノは聖銀の剣を置いた。

「鋼の剣は?」

「うちなら15ゴールド。地方の鍛冶屋でも直せます」

「鉄の剣は?」

「自分で研ぐ人もいます」

「素晴らしい」

「そこを褒める勇者は初めてです」

店主は慌てて聖銀の剣を持ち上げた。

「しかし、強い剣なら戦闘が早く終わります。怪我も減る。回復薬代まで考えれば、高い剣の方がお得ですよ」

フェルミノはうなずいた。

「正しい意見です。試し斬りを」

店の裏庭に、訓練用の木人が三体用意された。

まず鉄の剣。フェルミノは一撃で木人の腕を落とした。

次に鋼の剣。胴体へ深く食い込む。

武器屋の裏庭で、鋼の剣を訓練用木人へ試し斬りする黒髪のフェルミノ

最後に聖銀の剣。青い光が走り、木人はきれいに二つへ割れた。

店主は胸を張った。

「この威力です!」

「木人に対しては過剰です」

「え?」

フェルミノは手帳を開く。

旅の途中で最も多く戦うのは低級モンスター。鉄の剣でも一撃。鋼の剣でも一撃。聖銀の剣でも一撃。

「必要な攻撃回数が同じなら、戦闘時間はほとんど変わりません」

「強敵には違います」

「強敵と戦う頻度は?」

「勇者なら多いでしょう」

「先月は2回です」

「意外と少ない」

「道中のスライムは43回でした」

フェルミノは計算する。

聖銀の剣1200ゴールド。専門整備80ゴールド。盗難対策の鞘と鍵、追加で40ゴールド。高価な装備を持っていると知られた場合の危険。

鋼の剣450ゴールド。整備15ゴールド。多くの町で修理可能。

鉄の剣180ゴールド。安いが、強敵相手では攻撃回数が増える。折れる可能性も高い。

「鋼の剣が最も安定しています」

武器屋で剣の価値を見極める女勇者フェルミノ

店主は残念そうに聖銀の剣を戻した。

「最高の品を持つのも、勇者の務めだと思いますが」

「見栄の費用は王国へ請求できますか?」

「たぶん無理ですね」

「では不要です」

その時、店の奥から見習いが出てきた。

「店長、あの剣も見てもらったらどうです?」

持ってきたのは、柄に小さな傷がある鋼の剣だった。

「展示中に落としてしまいまして。性能に問題はありませんが、正規価格では売れない品です」

店主は渋い顔をする。

「それは350ゴールドだ」

フェルミノの目がわずかに動いた。

「試しても?」

傷のある剣は、先ほどの鋼の剣と同じ重さ、同じ切れ味だった。柄の傷は握れば見えない。

「これにします」

「勇者様、本当にそれで?」

「性能は同じ。100ゴールド安い」

「見た目が少し」

「敵は柄を見て笑いますか?」

「笑わないでしょうね」

「なら問題ありません」

フェルミノは代金を払い、古い剣を店主へ差し出した。

「下取りは?」

「刃こぼれがありますが、60ゴールドで」

「実質290ゴールド」

彼女は少し満足そうに新しい剣を腰へ差した。

店主が最後に尋ねる。

「もし魔王の城へ行く時は、聖銀の剣を買いますか?」

「必要なら買います」

「おお」

「ただし、城の直前で借りられないか先に調べます」

「武器をレンタルで済ませる勇者がいますかね」

「一度しか使わない高価な道具は、所有するより借りた方が得です」

「伝説の剣も?」

「返却期限によります」

店主は笑い、剣の手入れ用の布を一本おまけした。

フェルミノは値札を確認する。

「これは無料ですか?」

「無料です」

「では、この店を選んだ判断は正しかったです」

「剣じゃなくて布で評価が決まるんですか」

店を出たフェルミノは、新しい剣の柄の傷を指でなぞった。

完璧ではない。けれど、必要な時に必要なだけ働く。

道具としては、それで十分だった。


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