港町の依頼を終えたフェルミノは、報酬の袋と一緒に白い羽根を受け取った。
羽根の先だけが淡い青色に光っている。
「帰還の羽根です」
ギルド職員は得意そうに説明した。
「折れば、登録した町の門まで一瞬で戻れます」
「一瞬ですか」
「馬車なら二日かかる距離でもです」
フェルミノは羽根を光へ透かした。軽い。道具袋の重さにもほとんど影響しない。
隣の窓口にいた商人が、机を叩いて立ち上がった。
「そんな物があるなら、荷馬車はいらないじゃないか!」
職員が眉を上げる。
「旅人用なら道具屋で十二ゴールドですよ」
「十二ゴールドで二日分の運賃が消える! 明日から魚を内陸へ飛ばせば大もうけだ!」
商人はもう、頭の中で荷馬車を全部売っている顔だった。
フェルミノは羽根の説明書を開いた。
「運べる重さは、使用者を含めて百二十キロまでです」
「魚箱を持てばいい」
「装備を含めた私が六十一キロ。商人さんは?」
「七十……くらいだ」
「すでに上限を超えています」
商人は自分の腹を見下ろした。
「服を軽くする」
「魚はどうしますか」
「痩せる」
「魚が到着するころには、商人さんのほうが干物になりそうです」
職員が吹き出しそうになり、咳払いで隠した。
フェルミノは説明書をめくる。
「一枚につき一人、一回。生き物は使用者以外を運べない。液体は密閉容器で十リットルまで。刃物は鞘に収める」
「規則が多いな」
「一瞬で町の門へ魚と剣が降ってきたら危険です」
「では、干した魚を少しずつ運ぶ」
商人はまだ諦めない。
「羽根を十枚使えば百二十ゴールド。馬車より速い」
フェルミノは壁の料金表を指した。
「行き先の登録料が一つの町につき二百ゴールド。さらに門の転送陣は、利用一回につき八ゴールドです」
「羽根以外にも払うのか?」
「羽根は鍵です。扉の整備費までは含まれていません」
職員がうなずいた。
「転送陣には魔力石と監視員が必要です。故障すると、町の外の畑へ出ることがあります」
「畑なら近い」
「池へ出た例もあります」
「魚なら元気になるな」
「干物です」
商人は黙った。

フェルミノは手帳へ数字を書く。
羽根十二ゴールド。転送陣八ゴールド。一回二十ゴールド。運べる荷物は、本人の体重と装備を引いた残りだけ。
旅人が自分の足と宿代を省くには安い。けれど大量の商品を運ぶなら、人の数だけ羽根が必要になる。
「便利ですが、荷馬車の代わりではありません」
「一瞬で着くのに?」
「速さを買う道具です。量を運ぶ道具ではありません」
「経済が変わると思ったのに」
「変わりますよ」
フェルミノは窓の外を見た。討伐帰りの冒険者が、泥だらけの靴で門をくぐっている。
「薬を急いで届ける人。知らせを持ち帰る人。日暮れ前に家へ戻りたい人。二日を一瞬にできる価値は大きいです」
「魚を大量に売るためではなく?」
「魚は荷馬車に任せたほうが、安くたくさん運べます」
商人はしばらく考え、受付へ向き直った。
「では羽根を一枚くれ」
「ご自分で使うのですか」
「先に内陸の町へ飛んで、荷馬車が着く前に売り場を確保する」
フェルミノは小さくうなずいた。
「それなら、速さを正しく買っています」
商人は羽根を受け取り、すぐに折ろうとした。
フェルミノが手首を止める。
「行き先の登録は?」
「まだだ」
「先に二百ゴールドです」
商人は羽根をそっと机へ戻した。
一瞬で移動できても、準備まで一瞬で終わるわけではない。
便利な道具は、道を消すのではなく、別の料金所を作ることがある。

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