【女勇者フェルミノ 第15話】ワープの羽根が安くても、物流は無料にならない

女勇者フェルミノ第15話の表紙。【女勇者フェルミノ 第15話】ワープの羽根が安くても、物流は無料にならない 女勇者フェルミノ

港町の依頼を終えたフェルミノは、報酬の袋と一緒に白い羽根を受け取った。

羽根の先だけが淡い青色に光っている。

「帰還の羽根です」

ギルド職員は得意そうに説明した。

「折れば、登録した町の門まで一瞬で戻れます」

「一瞬ですか」

「馬車なら二日かかる距離でもです」

フェルミノは羽根を光へ透かした。軽い。道具袋の重さにもほとんど影響しない。

隣の窓口にいた商人が、机を叩いて立ち上がった。

「そんな物があるなら、荷馬車はいらないじゃないか!」

職員が眉を上げる。

「旅人用なら道具屋で十二ゴールドですよ」

「十二ゴールドで二日分の運賃が消える! 明日から魚を内陸へ飛ばせば大もうけだ!」

商人はもう、頭の中で荷馬車を全部売っている顔だった。

フェルミノは羽根の説明書を開いた。

「運べる重さは、使用者を含めて百二十キロまでです」

「魚箱を持てばいい」

「装備を含めた私が六十一キロ。商人さんは?」

「七十……くらいだ」

「すでに上限を超えています」

商人は自分の腹を見下ろした。

「服を軽くする」

「魚はどうしますか」

「痩せる」

「魚が到着するころには、商人さんのほうが干物になりそうです」

職員が吹き出しそうになり、咳払いで隠した。

フェルミノは説明書をめくる。

「一枚につき一人、一回。生き物は使用者以外を運べない。液体は密閉容器で十リットルまで。刃物は鞘に収める」

「規則が多いな」

「一瞬で町の門へ魚と剣が降ってきたら危険です」

「では、干した魚を少しずつ運ぶ」

商人はまだ諦めない。

「羽根を十枚使えば百二十ゴールド。馬車より速い」

フェルミノは壁の料金表を指した。

「行き先の登録料が一つの町につき二百ゴールド。さらに門の転送陣は、利用一回につき八ゴールドです」

「羽根以外にも払うのか?」

「羽根は鍵です。扉の整備費までは含まれていません」

職員がうなずいた。

「転送陣には魔力石と監視員が必要です。故障すると、町の外の畑へ出ることがあります」

「畑なら近い」

「池へ出た例もあります」

「魚なら元気になるな」

「干物です」

商人は黙った。

ワープの羽根を折ろうとする商人の手首を止めて登録料を確認する女勇者フェルミノ

フェルミノは手帳へ数字を書く。

羽根十二ゴールド。転送陣八ゴールド。一回二十ゴールド。運べる荷物は、本人の体重と装備を引いた残りだけ。

旅人が自分の足と宿代を省くには安い。けれど大量の商品を運ぶなら、人の数だけ羽根が必要になる。

「便利ですが、荷馬車の代わりではありません」

「一瞬で着くのに?」

「速さを買う道具です。量を運ぶ道具ではありません」

「経済が変わると思ったのに」

「変わりますよ」

フェルミノは窓の外を見た。討伐帰りの冒険者が、泥だらけの靴で門をくぐっている。

「薬を急いで届ける人。知らせを持ち帰る人。日暮れ前に家へ戻りたい人。二日を一瞬にできる価値は大きいです」

「魚を大量に売るためではなく?」

「魚は荷馬車に任せたほうが、安くたくさん運べます」

商人はしばらく考え、受付へ向き直った。

「では羽根を一枚くれ」

「ご自分で使うのですか」

「先に内陸の町へ飛んで、荷馬車が着く前に売り場を確保する」

フェルミノは小さくうなずいた。

「それなら、速さを正しく買っています」

商人は羽根を受け取り、すぐに折ろうとした。

フェルミノが手首を止める。

「行き先の登録は?」

「まだだ」

「先に二百ゴールドです」

商人は羽根をそっと机へ戻した。

一瞬で移動できても、準備まで一瞬で終わるわけではない。

便利な道具は、道を消すのではなく、別の料金所を作ることがある。


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