コンビニを出て三歩で、春が買い物袋の中をのぞいた。
「ねぇ悠。私、何を買ったっけ」
「今買ったばかりだろ」
「パンと飲み物と……あと何か」
俺は春の手にあるレシートを指した。
「そこに全部書いてある」
春は細長い紙を目の高さまで持ち上げた。
「レシートって、買い物の記憶係なんだね」
「記録だろ」
「私が忘れても、レシートは覚えてる」
春は上から順番に読み始めた。
焼きそばパン。麦茶。ヨーグルト。ミントタブレット。
最後に、割引されたプリン。
「あ、プリンだ」
「買った本人より先に紙が覚えてたな」
「しかも値段まで覚えてる。すごく細かい記憶係」
「仕事だからな」
「買った時間も、お店の名前も、担当してくれた人も書いてある」
春は感心したようにレシートを裏返した。裏面は真っ白だった。
「でも、どうして買ったかは覚えてない」
「そこまでは知らないだろ」
「プリンを買った理由とか」
「割引だったからだ」
「よく覚えてるね」
「隣で見てたからな」
「悠も記憶係だったの?」
「レシートより情報が少ないけどな」
俺たちは公園のベンチへ座った。
春は袋から焼きそばパンを取り出し、またレシートを見る。
「これ、食べ終わったあとも残るんだよね」
「紙だからな」
「パンはなくなるのに、パンを買った証拠だけ残る」
「犯罪みたいに言うな」
春はレシートを膝の上へ置き、焼きそばパンの袋を開けた。
一口食べる。
「おいしい?」
「それはレシートには書いてない」
「感想欄はないからな」
「もったいない。せっかく最後まで覚えてくれるのに」
春は余白へ小さく「おいしかった」と書いた。
その下に「麦茶はいつもの味」と続ける。
「日記にするのか?」

「記憶係に、気持ちも預けてるの」
「財布の中が感想文だらけになるぞ」
「あとで読み返したら、楽しいかもしれないよ」
春は割引プリンの横へ星を三つ描いた。
「まだ食べてないだろ」
「期待の星」
「採点が早い」
しばらくして、袋の中は空になった。
春はレシートを丁寧に二つ折りにする。
「これで今日の買い物は、ちゃんと残った」
「財布に入れるのか?」
「うん」
春が財布を開くと、中から古いレシートが何枚も出てきた。
「記憶係、多すぎないか」
「みんな仕事熱心なんだよ」
「整理されるのを待ってるだけだ」

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