昼休み、春が数学の小テストを前にして、筆箱の中を探っていた。
取り出した鉛筆の先は丸い。春は教室の後ろにある手回し式の鉛筆削りへ向かった。
俺が次の授業の教科書を出していると、背後で取っ手を回す音が長く続いた。
やがて春が戻ってくる。鉛筆の先は鋭くなっていたが、さっきより少し短い。
「ねぇ悠。鉛筆削りって、書く準備をするために鉛筆を減らすんだね」
「芯を尖らせてるからな」
「使いやすくするために、使える部分を捨てるの?」
「木と芯を少し削らないと、先が出ないだろ」
春は鉛筆を机の上へ置き、削る前の長さを指で示した。
「このくらいあったのに」
「削りすぎたんじゃないか」
「ちゃんと止まるまで回したよ」
「止まってからも回してた音がしたけど」
「念のため」
「その念の分、短くなったんだよ」
春は鉛筆削りの透明なケースをのぞき込んだ。中には木の削りかすと、黒い芯の粉がたまっている。
「ここに入ってるの、まだ書いてない鉛筆だよね」
「削りかすだな」
「一文字も書かずに終わった部分だ」
「木のところでは書けないけどな」
春はケース越しに削りかすを眺めた。
「鉛筆一本で書ける文字数って、削り方でも変わるのかな」
「無駄に削れば減るだろうな」
「じゃあ、丁寧に削る人の鉛筆は長生き?」
「必要な分だけ削ればな」
春は自分の鉛筆の先を確認した。尖りすぎた芯が、今にも折れそうに見える。
「でも細い方が、たくさん書けそう」
「折れたらもう一回削ることになるぞ」
「細くするために減らして、細すぎたら折れて、また減らす」
「今の春の鉛筆だな」
小テストが始まった。
一問目を書き始めた瞬間、春の鉛筆の芯が小さな音を立てて折れた。
春は折れた先と答案用紙を交互に見る。
「一文字も書いてない」
「さっき心配してた部分と同じだな」
春は予備の鉛筆を取り出した。こちらの先も丸い。
教室の後ろへ行こうとした春を、先生が席へ戻す。
仕方なく春は丸い芯のまま答案を書き始めた。文字は少し太いが、問題なく読める。
小テストが終わるころには、鉛筆の先がちょうどよく斜めに減っていた。
「悠、見て。書いてたら自然に書きやすくなった」
「今度から削らないつもりか?」
「削るよ。でも、鉛筆削りが満足する前にやめる」
「満足するのは春だろ」
放課後、春はもう一度鉛筆削りの前に立った。
今度は取っ手を二回だけ回し、鉛筆を抜く。先は尖りすぎず、丸すぎない。
春は満足そうにうなずいた。
「これなら、書く前に減らしすぎてない」
「やっと普通に削れたな」
春は筆箱へ鉛筆を戻しかけて、手を止めた。
「でも今日の小テストで、こっちはずいぶん短くなったよ」
「それはちゃんと使った分だろ」
春は二本を並べて見比べる。

「書いて短くなるのは、ちょっと嬉しいね」
「じゃあ家でも使え」
「今日は十分嬉しくなったから、続きは明日にする」
「鉛筆より先に、やる気が止まったな」

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