「B型って、自由ってこと?」

学校の放課後

「悠って、絶対A型だよね」

 昼休み、購買の焼きそばパンを半分に折った瞬間、春がそんなことを言った。

「いや急だな」

「え、違うの?」

「違うけど」

「えっ」

 春は本当に驚いた顔をした。
 たぶん、世界の重力が急に逆になったくらい驚いている。

「じゃあ何型?」

「O型」

「……うそだぁ」

「なんで疑うんだよ」

「O型ってもっとこう、でっかい感じするもん」

「俺は何を基準にサイズ測られてるの?」

 春はじっとこちらを見る。

「悠って、レジ並んでる時に『この列、進み遅いな』って考えるタイプでしょ?」

「考える」

「はいA型」

「雑すぎるだろ、その判定」

「あとプリントの端そろえる」

「そろえる」

「消しゴム、最後まで使う」

「使う」

「ほらぁ」

「だからって血液型は決まらないだろ」

 春は「むぅ」と唇を尖らせた。

 窓際の席。
 五月の風がカーテンを揺らして、春の髪が少しだけ跳ねる。

 こういう時、こいつはやたら絵になる。

 なのに言ってることはだいたい変だ。

「でも血液型占いって面白いよねぇ」

「まあ、盛り上がるけど」

「自分を説明したいんだと思う、人って」

「……急に深いこと言うな」

「だって、“私はこういう人です”って、みんな札をつけたがるでしょ?」

 春は焼きそばパンを掲げた。

「これは焼きそばパンです、みたいに」

「お前、自分を炭水化物と同列にするな」

「でもさ、安心するんだよ。わかりやすいから」

「まあ、それはちょっとわかる」

「“B型だからマイペースなんだ〜”って言えると、なんか失敗してもかわいい感じになるし」

「便利な免罪符みたいに言うな」

「A型だと“ちゃんとしてそう”って思われるし」

「偏見のフルコースだな」

「AB型はミステリアス」

「雑誌でしか聞かない表現」

「O型は……」

 春は少し考えてから言った。

「おおらかなゴリラ」

「全国のO型に謝れ」

「でもね」

 春はそこで笑った。

「悠って、“自分はこういう人間だから”って決めすぎる時あるよね」

「……え」

「“自分はネガティブだから”とか、“自分は慎重だから”とか」

 胸に、少しだけ刺さる。

 こいつは、たまに何でもない顔で核心を踏む。

「別に悪いことじゃないよ?」

 春はジュースのストローをくるくる回した。

「でも、人ってもっと適当でいいと思うんだよね」

「適当って」

「今日は明るいA型でもいいし、落ち込むO型でもいいし、急に哲学するB型でもいいの」

「血液型ってそういうシステムじゃないからな」

「じゃあ何型でもない日があってもいい」

「それ占い師泣くぞ」

 春はけらけら笑う。

 たぶん本人は、名言を言ったつもりすらない。

 ただ思ったことを、そのまま空に投げてるだけだ。

「でもさ」

 俺はパンの袋を丸めながら言った。

「春って、なんでそんな楽しそうなの」

「んー?」

「毎日毎日。嫌なこととかないのかよ」

「あるよ」

 即答だった。

「あるけど、“今日は最悪だ〜”って日って、後から思い出すとちょっと面白いじゃん」

「そんなもんか?」

「うん。人生って、あとで誰かに話せるようにできてる気がする」

 春は窓の外を見た。

 グラウンドではサッカー部が走っている。

「だからね、私は毎日楽しい方がいいとは思ってないの」

「え?」

「ずっと楽しいと、“楽しい”がわかんなくなるから」

 風が吹く。

 一瞬だけ、教室の音が遠くなった気がした。

「嫌な日があるから、“今日めっちゃいい日じゃん!”ってなるんだよ」

 春は笑う。

 いつもの、太陽みたいな笑い方で。

「だから悠も、もっと適当に生きなよ」

「……難しいんだよ、それ」

「じゃあまず、今日だけB型になれば?」

「何が変わるんだ」

「帰り道、信号赤でも“景色きれいだな〜”って思える」

「安いB型だな」

「お得だよ?」

 たぶん、こいつの言ってることはめちゃくちゃだ。

 血液型で人生は変わらないし、性格だってそんな単純じゃない。

 でも。

 “自分はこういう人間だから”って決めつけるより、少しだけ軽くなれる考え方なのかもしれない。

 春はもう次の話をしていた。

「ねえ悠、焼きそばパンって炭水化物で炭水化物挟んでるよね」

「今さらそこに気づいたの?」

「実質、欲望」

「それはそう」

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