「悠。募金箱って、たまに人間性テストしてない?」
コンビニを出た瞬間、春が真顔で言った。
「してない。あれは募金を集める箱だ」
「でも絶妙な位置にあるじゃん。レジ終わった直後の、“いい人になれるラストチャンス”みたいな場所に」
「言い方が通販サイトのカート画面なんだよ」
夕方だった。
商店街はオレンジ色に染まり始めていて、部活帰りの学生と買い物帰りの大人がゆっくりすれ違っている。
春はコンビニの袋をぶら下げながら、さっきのレジを振り返った。
「しかもさ、募金箱って透明じゃん」
「まあ、中見えるようにだろ」
「違うよ。“みんな入れてますよ感”を出してるんだよ」
「陰謀論みたいに言うな」
「たぶん募金箱界では、“小銭が一枚も入ってない状態”が一番怖い」
「募金箱界ってなんだ」
春はうんうん頷いた。
「だって誰も入れてないと、“自分だけ善人ぶってる感”出るじゃん」
「そんなこと考えて募金してるやつ初めて見た」
「だから最初に一円入れた人、めちゃくちゃ勇気ある」
「勇気の使い方そこ?」
春は少し考えてから、急に立ち止まった。
「でも逆に、一円しか入れない人もすごいよね」
「どういう理論だ」
「“自分は今、一円しか出せないけど、それでも気持ちはある”っていう、かなり誠実な表現じゃない?」
「お前、募金への解像度が高すぎるんだよ」
「あと百円入れる人は、“いい人になりたい”が自然な人」
「勝手に分類するな」
「千円入れる人は、“もう今日は徳を積む日”って決めてる」
「修行僧みたいに言うな」
春はそこでふっと笑った。
「でも、募金箱ってちょっと不思議だよね」
「何が」
「知らない誰かのためにお金入れるのに、“ありがとう”って直接言われないじゃん」
「まあ、そうだな」
「なのに入れる人いるの、なんか人類って思ったより優しい」
商店街の端で、風が少し吹いた。
自転車置き場の旗がぱたぱた揺れる。
悠はコンビニの袋を持ち直しながら言った。
「……お前、たまに変な方向から世界見るよな」
「え、楽しいよ?」
「募金箱見て“人類って優しい”に着地するやつ普通いない」
「でもさ」
春は歩きながら、小さく笑った。
「募金って、“余ってるからあげる”だけじゃなくて、“ちょっとでも世界マシになれ”って感じじゃん」
「まあ……そうかもな」
「だから募金箱って、“人類まだ諦めてませんボックス”だと思う」
「急にキャッチコピーみたいになるな」
「コンビニに置いてある希望」
「スケールがデカい」
「でも、あそこに毎日ちゃんと小銭入るって、地味にすごくない?」
春はそう言って、さっき買ったアイスの袋を開けた。
「あ」
「どうした」
「アイスの当たり棒だった」
「お前、今日たぶん運が世界に偏ってる」
「募金しよっかな」
「その流れで徳を循環させるな」
「ほら、“世界マシになれ税”」
「税じゃない。自主性を失うな」
春はけらけら笑いながら、当たり棒を空に向けた。
夕焼けの色が、少しだけ薄くなっていた。



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