レシートは、買い物の卒業証書

レシートは、買い物の卒業証書の場面を描いた春と悠の表紙 春と悠シリーズ

放課後、春と悠はコンビニへ寄った。

春はオレンジジュースとグミ。悠はおにぎりと麦茶をレジへ置く。

会計が終わり、店員がレシートを差し出した。

悠は受け取り、財布に入れる。春は自分のレシートを見たまま動かなかった。

「どうした」

「ねぇ悠。レシートって、買い物の卒業証書だよね」

「違う」

「早い」

「会計の記録だよ」

二人は店を出て、軒下のベンチに座った。春はレシートを両手で持ち、上から下まで読む。

「だって、これをもらったら買い物が終わるでしょ」

「終わった証明ではあるな」

「ほら。卒業証書」

「買った物と金額が書いてあるけど」

「成績表も一緒なんだよ」

春は明細を指で追った。

「オレンジジュース、138円。グミ、128円。合計266円」

「普通の明細だ」

「今日の私は、おやつ科を266円で卒業しました」

「明日また入学するだろ」

春はグミの袋を開けた。

「コンビニは入学が簡単だから」

「お金があればな」

悠も麦茶の蓋を開ける。春は悠のレシートをのぞき込んだ。

「悠は昼食補習」

「放課後におにぎりを買っただけだよ」

「お昼が足りなかった人の追加授業」

「勝手に単位を作るな」

ベンチの横には、小さなレシート用のごみ箱がある。何枚もの白い紙が重なっていた。

春はそれを見て首をかしげる。

「卒業証書、すぐ捨てられてるね」

「卒業証書じゃないから」

「みんな、過去を振り返らないんだ」

「財布にたまるからだよ」

「悠は取っておくの?」

「一応。金額が合ってるか確認する」

「同窓会するんだ」

「家計簿」

「昔買ったおにぎりたちを思い出す会」

「食べたら思い出さないよ」

春は自分のレシートを光に透かした。薄い紙に黒い文字が並ぶ。

コンビニの軒下のベンチでレシートを光に透かす春と、麦茶を持つ悠

「でも不思議。お金を払ったのに、最後に紙を一枚もらえる」

「記録だから」

「買い物は物を増やすのに、レシートまで増える」

「袋を断れば少し減る」

「レシートも断ったら、買い物した事実はどこへ行くの?」

「店の記録には残る」

「自分の中だけ卒業してない感じになるね」

悠は少し考えた。

「商品を持ってる時点で終わってるだろ」

春はグミを一粒持ち上げた。

「これは卒業記念品?」

「本体だよ」

「じゃあレシートが本体じゃないの?」

「誰が紙を買いにコンビニへ来るんだ」

その時、春が「あ」と声を出した。

「どうした」

「私、前に同じグミをもっと安く買った気がする」

「値上がりしたんじゃないか」

「前の卒業証書を見ればわかる?」

「捨ててなければ」

「捨てた」

「じゃあ留年だな」

春が目を丸くする。

「今、悠が私の考え方に入ってきた」

「一回だけだ」

「入学おめでとう」

「もう卒業した」

春は笑いながらレシートを四つ折りにし、財布の透明なポケットへ入れた。

「今日は取っておく。未来の私が、266円をどう思うか知りたいから」

「たぶん何も思わない」

「『この頃はグミが128円だった』って泣くかも」

「そんな未来は嫌だな」

二人は食べ終え、駅へ向かった。

歩きながら、春は何度も財布を確かめる。レシートはまだ透明なポケットに入っていた。

「ねぇ悠」

「なに」

「卒業証書って、なくしても卒業は取り消されないよね」

「そうだな」

「じゃあレシートも捨てていい?」

「もう飽きたのか」

「財布が閉まりにくい」

「一枚で?」

春の財布から、別の日のレシートが何枚も出てきた。文房具店、パン屋、ドラッグストア。いつ入れたのか本人も覚えていない。

悠は束を見て言った。

「卒業しすぎだろ」

春は少し考え、一番新しいレシートだけ残した。

「過去の学校は閉校しました」

「財布の整理だよ」

レシート用のごみ箱へ紙を入れる。春は新しい一枚を財布に戻し、満足そうにうなずいた。

「今日の卒業生代表」

「明日には退学してそうだな」


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