【女勇者フェルミノ 第13話】薬草は、食べる前に説明書がいる

女勇者フェルミノ第13話の表紙。【女勇者フェルミノ 第13話】薬草は、食べる前に説明書がいる 女勇者フェルミノ

森を抜ける途中、フェルミノは右手の甲を枝で浅く切った。

血はにじんだが、初級回復魔法を使うほどではない。彼女は道具袋から、乾燥させた薬草の束を取り出した。

包み紙には、こう書かれていた。

『旅人の傷に。よく効く薬草』

それだけだった。

フェルミノは薬草を見つめた。

「食べるのでしょうか」

隣を歩いていた薬売りの見習いが振り返る。

「え?」

「塗るのでしょうか。煎じるのでしょうか」

「薬草なんだから、傷に使えばいいんですよ」

「使い方を聞いています」

見習いは薬草を一枚つまんだ。

「村では、揉んで貼ります」

「あなたの店では?」

「煎じて飲みます」

「同じ薬草を?」

「たぶん」

フェルミノは、薬草を包みへ戻した。

「たぶんで体内に入れる物ではありません」

二人は街道脇の休憩所へ入り、店番の老婆に尋ねた。

老婆は薬草を見るなり言った。

「それなら、噛んで傷へ塗るんだよ」

見習いがうなずく。

「ほら、塗る方でした」

「先に噛んでいます」

「食べてはいません」

「口には入れています」

老婆は別の棚から、同じ葉に見える薬草を出した。

「こっちは煮て飲む。熱がある時に効く」

「見分け方は?」

「葉の裏の筋が一本多い」

フェルミノと見習いは、二つの葉を並べた。

「同じに見えます」

「慣れれば分かるよ」

「慣れるまでに、何回間違えますか」

老婆は黙って眼鏡をかけた。

よく見ると、フェルミノの薬草は傷へ貼る種類だった。ただし、揉んで汁を出し、清潔な布の上から当てる。直接貼ると細かな毛が皮膚を刺激するという。

「効果が出るまでの時間は?」

「半日くらいだね」

「では、すぐに戦闘がある時には向きません」

「急ぐなら回復薬だよ。一本五十ゴールド」

薬草は一回分三ゴールド。安いが、効き目は遅い。傷を洗う水と清潔な布も必要だった。

薬草を布で右手の甲へ巻く女勇者フェルミノと説明を書く薬売りの見習い

フェルミノは手帳へ書く。

『浅い傷、戦闘予定なし――薬草』

『深い傷、戦闘予定あり――回復薬または治療院』

見習いが覗き込んだ。

「安い方を使うんじゃないんですね」

「安くても、必要な時までに効かなければ治療費ではなく飾りです」

フェルミノは傷を水で洗い、自分の布を細く切った。揉んだ薬草を布で包み、右手の甲へ巻く。

「それで、治ったと分かるのはいつです?」

「痛みが引き、赤みが広がらなければ半日後です」

「広がったら?」

「使用を中止して治療院へ行きます」

「薬草にも撤退条件があるんですか」

「効いていると信じて重症になる方が高くつきます」

老婆は感心したように、薬草の包み紙を裏返した。

「そこまで書く場所はないねえ」

フェルミノは紙の余白を指した。

「『食べない』『直接貼らない』『半日』の三つなら入ります」

見習いが炭筆で書き込んだ。

食べない。

直接貼らない。

半日待つ。

翌朝、見習いは店で売る薬草の包みすべてに、小さな説明札を付け始めた。

「手間が増えました」

「問い合わせは減ります」

「間違えて使った客の返品も?」

「治療費の相談も減ります」

見習いの手が急に速くなった。

フェルミノは包帯を外した。傷は閉じ、赤みもない。

「効きましたね」

「はい。三ゴールドで済みました」

「薬草は安い」

フェルミノは、新しく説明札の付いた包みを一つ買った。

「説明がある薬草は、です」

包みの裏には、さらに小さな文字が増えていた。

『分からない時は、食べる前に聞いてください』

フェルミノはそれを読み、静かにうなずいた。

「順番が正しくなりました」


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