【女勇者フェルミノ 第14話】ボスを倒しても、帰り道は自動じゃない

女勇者フェルミノ第14話の表紙。【女勇者フェルミノ 第14話】ボスを倒しても、帰り道は自動じゃない 女勇者フェルミノ
塔の階段を下りながら残された魔物と向き合う黒髪の女勇者フェルミノ

塔の最上階で、風の魔人が消えた。

黒い霧がほどけ、床へ青い宝石だけが転がる。フェルミノは剣を収め、周囲を見回した。

壊れた玉座。閉じた窓。上ってきた階段。

それだけだった。

「出口はどこでしょう」

答える者はいない。

勝利を告げる光も、地上へ戻す魔法陣も現れなかった。

フェルミノは塔へ入る前にもらった見取り図を開く。最上階は七階。帰路は、来た道と同じ階段である。

「ボスを倒しても、階段は残るのですね」

彼女は体力を確認した。残りは六割。回復薬は二本。戦闘で使った投げナイフはすべて回収済みだった。

下り始めてすぐ、六階の踊り場で三匹の小鬼と鉢合わせた。

小鬼たちは棍棒を構えたまま、フェルミノの背後を見た。

「親分は?」

「倒しました」

三匹の棍棒が、少しずつ下がった。

「じゃあ、俺たちは誰の命令で戦えばいいんだ」

「私に聞かれても困ります」

一番小さな小鬼が棍棒を持ち直した。

「でも勇者を見たら襲えって、昨日までは言われてたぞ」

「その命令を出した方は、もういません」

「今日の分は有効か?」

「命令に有効期限が書かれていたのですか」

「書いてない」

三匹は顔を見合わせた。

フェルミノは剣へ手をかけずに言った。

「私は地上へ戻りたいだけです。戦わないなら、追いません」

「逃げてもいいのか?」

「塔の外で人を襲わないなら」

小鬼たちは相談を始めた。

「外で何をする?」

「畑仕事なら、叔父がやってる」

「棍棒しか持てないぞ」

「鍬も似たような形だ」

話がまとまりそうだったので、フェルミノは横を通った。

五階では、鎧を着た骸骨兵が通路を塞いでいた。

「ボスを倒した者を、無傷で通すわけにはいかない」

「無傷ではありません」

フェルミノは左肩の浅い傷を見せた。

「そういう意味ではない」

「では、戦う必要はありますか」

骸骨兵は剣を抜く。だが、切っ先はわずかに下を向いていた。

「番兵は、侵入者を止めるのが仕事だ」

「私は今、退出者です」

骸骨兵の動きが止まった。

「退出者を止めろとは?」

「言われていない」

「なら、仕事の範囲外です」

「しかし、勇者を通したと知られれば――」

骸骨兵は最上階を見上げた。報告する相手がもういないことに気づき、剣を鞘へ戻した。

「右の階段を使え。左は三段目が抜けている」

「ありがとうございます」

「案内したのではない。事故を減らしただけだ」

「合理的です」

四階まで下りると、階段の前に魔物が列を作っていた。小鬼、獣人、空飛ぶ目玉。全員が荷物を抱えている。

「なぜ並んでいるのですか」

目玉の魔物が宙で一回転した。

「親分が負けたなら、この塔も終わりだろ。俺たちも出る」

「階段は一つしかないぞ」

「押すなよ。荷物が落ちる」

フェルミノは列の長さを数えた。十七体。一体につき踊り場を通るのに十秒なら、三分ほど待つ。

無理に追い越せば、狭い階段で揉める。戦闘になれば、さらに時間と体力を失う。

彼女は列の最後へ並んだ。

塔の階段で荷物を抱えた魔物の列の最後に並ぶ女勇者フェルミノ

前の獣人が振り返る。

「勇者なのに待つのか」

「下りる順番に、職業は関係ありません」

「俺たち、敵だぞ」

「今は避難する人たちです」

列はゆっくり進んだ。

三階の倉庫で、小鬼が床へ落とした袋から乾燥豆がこぼれた。フェルミノは足を止め、袋の口を結び直す。

「拾ってくれるのか」

「階段に豆が散ると、後ろの全員が転びます」

「優しいからじゃなく?」

「両方です」

小鬼は少しだけ背筋を伸ばした。

一階へ着くころには、塔の入口に夕日が差していた。

外で待っていたギルド職員が、フェルミノへ駆け寄る。

「ご無事でしたか! 魔人は?」

「討伐しました」

「では、どうして後ろから魔物が続々と?」

塔の住人たちは、出口で行き先を相談している。畑へ行く者。街道から離れた森へ戻る者。武器を置いて、ギルドの聞き取りを受ける者。

フェルミノは答えた。

「ボスを倒しても、手下が自動で消えるわけではありません」

「普通は、残党戦になるのでは」

「戦う理由がなくなった相手と戦えば、こちらの回復薬と時間が減ります」

ギルド職員は塔を見上げた。

「それで、帰りは歩いて?」

「七階分です」

「転送魔法陣はありませんでしたか」

「玉座の後ろまで確認しました」

「宝箱は?」

「ありません」

「勝利のご褒美が、ずいぶん地味ですね」

フェルミノは靴についた塔の埃を払った。

「帰れることが、ご褒美です」

その時、塔の最上階から遅れて鐘が鳴った。

勝利を知らせる鐘らしい。

フェルミノは七階の窓を見上げた。

「鳴らすなら、下りる前にしてほしかったです」

物語はボスを倒したところで一区切りになる。

けれど旅人は、そのあと自分の足で、ちゃんと帰らなければならない。


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