
新学期の朝、昇降口には夏休み明けの足音が集まっていた。
俺が靴箱から上履きを出すと、隣で春が白い上履きを両手に持ったまま止まった。
「ねぇ悠。上履きって、校門を出ないよね」
「出したら上履きじゃなくなるからな」
「学校専用の靴なんだ」
春は脱いだ外靴と上履きを並べた。外靴には通学路の砂。上履きのつま先には春の名前。
「外靴は私をここまで送って、上履きが校内を担当する」
「靴の交代制か」
「うん。昇降口が引き継ぎ場所」
春は上履きへ履き替え、外靴を靴箱へ入れた。扉を閉める前に、外靴へ小さく手を振る。

「行ってきます」
「靴に見送られてる人、初めて見た」
廊下を歩きながら、春は足元を見る。
「上履きは教室も廊下も知ってるけど、通学路は知らない」
「外靴はその逆だな」
「同じ私の靴なのに、担当がきれいに分かれてる」
「床を汚さないためだよ」
「じゃあ体育館シューズは?」
「体育館担当」
「すごく専門的だ」
「出番は少ないけどな」
放課後、また昇降口へ戻った。春は外靴を取り出す。
「ただいま。今日の上履きは、六時間全部担当しました」
「業務報告はいいから履き替えろ」
春は片方だけ外靴へ履き替え、もう片方は上履きのまま立ち上がった。左右の高さが違い、体が少し傾く。
「今、引き継ぎ中」
「一斉に替えろ」
春は笑いながら両方を履き替えた。
春は上履きを靴箱へ入れようとして、手を止めた。
「今日、持って帰る日だった」
週末なので、上履きを洗うらしい。
春は上履きを袋に入れ、外靴で校門を出る。門を過ぎたところで袋を持ち上げた。
「上履き、校門の外へ出ちゃった」
「袋の中だけどな」
「今日だけ外靴の担当になるのかな」
「歩いてるのは外靴だろ」
春は袋の中を見る。
「じゃあ上履きは休日?」
「これから洗われるぞ」
春は少し考えた。
「家でも働くんだ」
「一番大変な担当が残ってたな」

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